代替プロテイン

スウェーデンのMillow、オーツ麦と菌糸体でつくる代替肉の大規模工場を開設

2025年6月4日更新

スウェーデン、ヨーテボリを拠点とするフードテック企業Millowは先月28日、オーツ麦菌糸体を用いたクリーンラベルな代替肉を製造する「世界初の」大規模工場の開設を発表した

工場はヨーテボリ市内にあり、今年後半に全設備が整えば、1日最大500kgのタンパク質を生産できる見込みだという。

液中発酵・固体発酵の課題を克服する独自技術

菌糸体と北欧産オーツ麦から作られた代替バーガー 出典:Millow

2020年設立のMillowはオーツ麦と菌糸体から代替肉を開発している。Quornなど他社のマイコプロテイン企業が菌類を培養してバイオマスを生成するのに対し、Millowはオーツ麦などの植物成分に菌糸体を加える新しいプロセスを採用しており、テンペとも異なる製品だとしている

同社の製品は100gあたりタンパク質を最大27g含むほか、食物繊維、ビタミン、ミネラルも含む。

中核技術は菌糸体専門家のMohammad Taherzadeh教授によるもので、MUTE (Mycelium Utilized Texture Engineering)と呼ぶ特許出願中の自社技術を使用して、菌糸体と植物成分を混合して、結着剤を使用せずに、形状を自在に変えて食感のある代替肉を生成できるとしている

Millowの出願特許(EP4307913 A1)によれば、この技術は液中発酵(SMF)における大量の水使用や、固体発酵(SSF)における熱伝達・物質移動の難しさといった課題を克服するものとなる。特に固体発酵では、粒子間および粒子内部での干渉により熱放散が妨げられやすいという。また、菌糸体は自然界では固体上で成育するにもかかわらず、液中発酵はそれに適さない人工的な条件であるとも同社は指摘する。

Millowは総固形分51~85%の基質に菌糸体を接種し、水分、気体の流量、温度、光強度、pHなどのパラメータを継続的に監視しながら発酵を行っている。

さらに別の出願特許(EP 4556552 A1)では、近赤外分光データ機械学習を組み合わせて、含水率・菌糸体バイオマスの品質・残留基質の割合などを推定し、AIによってプロセスを制御する監視技術も開示されている。

プレスリリースによると、生産には同社独自の「S-ユニットバイオリアクター」が用いられており、1kgあたりの水使用量は3-4リットルと、標準的な菌糸体プロセスに比べて95%削減できるという。

Taherzadeh教授は、「私たちのプラットフォームは穀物基質を一晩で変換できるため、どの地域でも最小限の資源で独自の高機能なタンパク質を生産できます」と述べている。

EIC支援で旧LEGO工場を転用

出典:Millow

Millowはこれまでパイロット規模での生産を行ってきたが、今回、旧LEGOの生産施設だった2,500㎡の敷地に大規模工場を開設したことで、スケールアップへと前進した。

この工場の設立は、欧州イノベーション会議(EIC)からの支援を受けて実現した。

MillowはEICの「ブレンデッド・ファイナンス(公的資金+投資・融資などの民間資金の組み合わせ)」スキームにより、1,750万ユーロ(約28億円)の資金支援を受けており、その一部の250万ユーロ(約4億円)は助成金として獲得している。

2024年にはバイオマス発酵分野の投資が前年比で回復傾向にある中、Millowはその波に乗る形で出資を受けた

この動きは、同じスウェーデンのMycorenaが財政難で倒産し、Naplasol買収された動きとは対照的であり、従来の液中発酵・固体発酵の課題を克服するMillowの独自技術が評価された結果と考えられる

EIC議長のStaffan Hillberg博士は、「植物肉は味と透明性で失敗したという批判もありますが、この工場はその両方を産業レベルで解決できることを示しています」とMillowの可能性に期待感を示している。

公式サイトによると、同社はこれまでスウェーデン国内でのみ製品を展開してきた。

プレスリリースによれば、現在は2025年末までに複数の製品の発売を目指して、大手食品メーカー、小売業者、卸売業者との販売契約の最終調整を進めている。今年後半に工場が本格稼働すれば、スウェーデンを中心に、Millowの代替肉の供給拡大が見込まれる。

 

※本記事は、プレスリリースおよび公開特許を含む一次情報をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Millow

 

関連記事

  1. GOOD Meat、Upside Foodsの2社がUSDAの表…
  2. オーストラリアが培養肉承認に向けて一歩前進|FSANZがVowの…
  3. ドイツのマイコプロテイン企業Kyndaが約4.7億円を調達、大手…
  4. 細胞培養によるカキを開発するアメリカ企業Pearlita Foo…
  5. オランダのモサミート、培養脂肪で英国初の承認申請を提出
  6. アフリカ発の培養肉企業Mzansi Meat、2022年後半の市…
  7. 細胞培養により牛乳を開発するBrown Foodsが約3.2億円…
  8. バイオ3Dプリンターで代替肉を開発するスペイン企業Cocuusが…

おすすめ記事

米ビール大手のモルソン・クアーズが植物性ミルク市場へ進出

アメリカ大手のビール会社であるモルソン・クアーズ(Molson Coors)は、…

【現地レポ】シンガポールの精肉スーパーHuber’s Butcheryが来月から培養肉を販売

2024年5月16日更新シンガポールで培養肉が販売されてから2年。これま…

Apeel Sciences、鮮度を保てるプラスチックフリーなキュウリ、ウォルマートで販売開始|食品ロス問題の解決に

食品ロス問題に取り組む米スタートアップのApeel Sciencesは、Houwelingグループと…

エンドウ豆由来の代替ミルクを展開する米Ripple Foodsが約72億円を調達

黄エンドウ豆由来の代替ミルクを開発・販売する米Ripple Foodsが4,92…

6つの豆をベースに代替魚を開発する米Good Catchがシンガポールへ進出

6つの豆をベースに植物性の代替魚を開発する米Good Catchがシンガポールに…

Oishii Farmが進める植物工場のパッケージ化|年内に国内イノベーションセンター設立へ【セミナーレポ】

2025年5月19日更新(Oishii社確認のもと、一部修正)アメリカ・ニューヨークから1時…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

培養魚企業レポート予約注文受付中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(06/25 15:22時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(06/25 01:20時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(06/25 05:16時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(06/25 21:25時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(06/25 13:27時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(06/26 00:30時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP