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米EdiMembre、ホールカット細胞性食品の開発に向け、可食中空糸式バイオリアクターを開発|約5,800万円のプレシード資金を調達

出典:EdiMembre

細胞性肉(培養肉)のスケールアップを目指して、アメリカで新たなスタートアップが登場した。

ドイツを拠点とするメルク(Merck KGaA)のライフサイエンスブランドMilliporeSigmaからスピンアウトされた米EdiMembreは、「スケーラブルなホールカット細胞性肉の開発」を可能にする可食中空糸を用いたバイオリアクター(以下、可食中空糸バイオリアクター)を開発している

中空糸とは、ストローやマカロニのように中心部が空洞で、半透性の膜を有する細い繊維状の構造を指す

同様の取り組みでは、東京大学竹内昌治教授らの研究グループが、1000本以上の中空糸を用いた装置で約11グラムの培養鶏肉の作製に成功している。グループは、中空糸を血管に見立て、栄養や酸素など特定の分子のみを透過させることで、内部の壊死を抑制した。

現時点では、東大では灌流培養後に中空糸を抜き取るのに対し、EdiMembreの場合、中空糸に食用膜を使用しているため、中空糸を取り除く必要がない点が異なる(東大も将来的には可食式に置き換えることを検討している)。

共同創業者Tim Olsen氏(左)とRyan Sylvia(右) 出典:EdiMembre

EdiMembreの特許取得済みの可食中空糸バイオリアクター「CraftRidge」は、構造化されたホールカット肉(塊肉)を大量に生成することを目的としている。パートナー企業と協力し、これまでに単一細胞、細胞塊、接着細胞のバイオプロセス手法を用いて、複数の細胞タイプや種における応用可能性を実証してきたという。現在は、数グラムの培養に適したベンチトップ装置を提供しているが、キログラム単位での提供の実現を目指している

「CraftRidge」に使用される食用膜は、伝統的な膜形成技術に着想を得て開発された。特許取得済みの相転換法を用いて、豆類タンパク質単離物からマイクロおよびナノの多孔性膜を形成している。これらの膜は、大きな分子を透過させる一方で、細胞の付着も促進するという

膜の物理的な性質を調整することも可能で、構造化された細胞性肉に限らず、豆類タンパク質単離物のみを用いたパスタ開発においても、パートナーによって検証されている

出典:EdiMembre

メルクの特許(発明者の一人はEdiMembre共同創業者Ryan Sylvia氏)によると、食用膜の製造工程では、溶液のpHを変化させて相分離を生じさせていると思われる([0004])。

EdiMembreはSiddhi CapitalReplicator VCMeach Cove Capital、そして同じく中空糸バイオリアクターを開発する英Cellular Agricultureなどから40万ドル(約5,800万円)のプレシード資金を調達しており、すでにシードラウンドを開始した。

共同創業者であり技術の中核を担うRyan Sylvia氏は、「製品アイデアの段階から、複数の主要な細胞性食品企業に機能的な試作品を届けるまでの道のりは、これまで不可能と思われていた境界を塗り替えるものでした」とプレスリリースで述べている。

さらに、「MilliporeSigmaで開発中の単一の製品として始まったものが、いまや代替タンパク質分野の企業から関心を集める堅牢な技術プラットフォームへと進化しました」と述べ、技術の実用化に向けた手ごたえに言及している。

Green queenの報道によると、「2025年末までに1kgの装置の最初のバージョンを完成させ、将来的には30kgの装置を想定」しているという。「ユーザーの要件に応じて、装置に投入する中空糸膜の量を制御可能で、最終製品に占める中空糸膜は30~50%を占める」と予想される。また、「中空糸の内腔に脂肪成分を加えることも可能」だという。

特許が示すスケールアップ方法

出典:EdiMembre

1kgから30kgへの具体的なスケール手法の詳細は公表されていないが、メルクの別の特許(発明者の一人はやはりRyan Sylvia氏)には下記記載がある。

The diameter and length of the hollow fiber cartridge will depend on the desired structured clean meat product being produced and bioreactor configurations.
(中空糸カートリッジの直径および長さは、製造される所望の構造化された細胞性肉製品およびバイオリアクターの構成に依存する)」([0086])。

さらに、中空糸カートリッジは、管状のほか、楕円状、平らなシート状、長方形などさまざま形状が想定されている([0090])。

これより、細胞性肉の短辺の幅は、中空糸(の束)を収容するカートリッジの直径断面の大きさに依存するものと考えられ、カートリッジを大型化または(マニホールド化による)並列化([0091])によりスケール化が可能となると考えられる。最終的な製品形態も、カートリッジの形状を変えることで、異なる形状の細胞性肉が生成できるものと考えられる。

出典:WO2022038240A2 左は中空糸が自重を支えることができることを示す写真(2m)

EdiMembreの中空糸バイオリアクター「CraftRidge」は現在、研究開発用途で3g、250ドル(約36,000円)で販売されている。東大の研究開発と並び、細胞性肉の大量生産に向けて、中空糸技術がいかに実用化されていくか、注目される。

 

※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

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アイキャッチ画像の出典:EdiMembre

 

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