代替プロテイン

精密発酵でアニマルフリーなチーズを作るNutropyが約2.8億円を調達

 

パリを拠点とする精密発酵企業Nutropyは今月、プレシードラウンドで200万ユーロ(約2億8600万円)を調達した。

ラウンドは多くの代替タンパク質企業に出資するアメリカのベンチャーキャピタルBig Idea Ventures、イギリスのベンチャーキャピタルBeast、アーリーステージのフードテック企業に特化したベンチャーキャピタルTrellis Roadが主導し、フランス政府VegCapitalFoodHackTechmindなどが参加した。

Nutropyは今後2年以内にアニマルフリーな精密発酵チーズを市場に投入する計画を立てている。

本物と区別できない精密発酵チーズ

出典:Nutropy

Nutropyは畜産に関連する環境、動物福祉、食品安全上の問題がなく、本物と区別できないチーズを開発するために、精密発酵によりカゼインタンパク質(乳タンパク質の1つ)と乳脂肪酸を開発している。

Nutropyは酵母をプログラムし、バイオリアクターの中で砂糖、ミネラル、ビタミンを供給し、発酵によりカゼインタンパク質、乳脂肪酸を生成させる。生成された乳成分を収穫し、他の成分と混合してアニマルフリーミルクとした後、凝固、発酵プロセスを経てチーズとする。

最初の製品は、カマンベールチーズに似た高級な熟成フレンチチーズになるという。

Nutropy共同創業者のMaya Bendifallah氏は海外メディアのインタビューに対し、「私たちは乳製品生産者がプラグアンドプレイで使用できる、完全なアニマルフリーの『チーズにできるミルク』ソリューションを提供する唯一の企業です」とコメントしている。

※プラグアンドプレイとは、導入してすぐに使用できるという意味。

同氏はさらに、「カゼインと乳脂肪酸を開発する企業はごくわずかです。すべての企業が、アニマルフリーなチーズ、特に複雑で高級なチーズの開発に取り組める食品研究者を有しているわけではありません」と述べている

ラウンドを主導したBig Idea Ventures創業者のAndrew D. Ive氏は、「イベントで彼らの高級チーズを試食しましたが、口当たり、味は高級な動物由来チーズと区別できないものでした。生物学的に同等な成分の使用はゲームチェンジャーです」と述べ、Nutropyの技術と品質を評価している。

次世代型アニマルフリーチーズ

Maya Bendifallah氏(左)とNathalie Rolland氏(右)

NutropyはNathalie Rolland氏Maya Bendifallah氏が2021年に立ち上げた。

農家出身のRolland氏はAgriculture Cellulaire Franceの共同創業者であり、オランダ、マーストリヒト大学とフランスの公的な農業研究機関French National Institute for Agricultural Research(INRAE)で培養肉の受容に関する研究を行っていた。

Rolland氏はまた、細胞農業のスペシャリストとして非営利組織ProVeg Internationalに所属していた経験を持つ。

Bendifallah氏はカゼインに類似したタンパク質の構造研究など生化学・分子生物学で長年にわたる専門知識を有する。代替タンパク質の開発が盛んになる中、より持続可能な未来を創造する役割を担えると確信した両氏は、2021年にNutropyを設立した。

精密発酵で動物タンパク質を開発する企業としては、アメリカのパーフェクトデイが先駆的・代表的な例として知られる。

出典:New Culture

微生物に目的タンパク質の遺伝子を組み込んで、微生物を「ミニ工場」とする精密発酵は、動物に依存せずに同等のタンパク質を生産でき、畜産による環境負荷を軽減し、天候・地理的要因に影響を受けない食料生産を実現するものとして注目されている

特に、植物性チーズに足りないとされる伸び、食感の課題を解決できる精密発酵チーズの可能性に着目し、チーズを開発する企業は増加傾向にある。NutropyはNew CultureFormoなどの精密発酵チーズを作るスタートアップのリストに加わった。

FoodHackの報道によると、Nutropyは「工業的なチーズ生産者」とすでに協業しており、パイロット生産を開始する段階にあるという。

 

参考記事

Start-up harnesses caseins and dairy fatty acids to develop ‘next generation’ of cheese

Paris-based Nutropy bites into €2 million to make animal-free dairy a tastier reality

How two cell ag pioneers are leveraging precision fermentation to create next gen premium cheese

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Nutropy

 

関連記事

  1. Back of the Yards Algae Sciences…
  2. 精密発酵で脂肪を開発するNourish Ingredientsが…
  3. イート・ジャストが中国ファンドから約34億円を調達、代替卵JUS…
  4. アレフファームズがブラジル食肉大手BRFと培養肉の開発・ブラジル…
  5. インポッシブルフーズが植物性ソーセージを小売で販売開始
  6. タイ食品大手のCPフーズがイスラエルの培養肉企業フューチャーミー…
  7. 菌糸体から代替肉を作るAtlast Foodが約43億円を調達
  8. 100%スピルリナ由来の代替スモークサーモンを開発するSimpl…

おすすめ記事

韓国の培養肉企業SeaWith、2030年までに培養ステーキ肉を1kgあたり3ドルへ

培養肉を開発する韓国企業Seawithが、新たな目標を発表した。同社はこ…

Vowが絶滅マンモスのDNAから培養マンモスミートボールを作製

オーストラリアの培養肉企業Vowは、絶滅したケナガマンモスのタンパク質で作られた…

材料毎に投入タイミングを制御するスマート調理ロボットOliver

ほかの料理の準備で焼きすぎてしまったり、ゆですぎてしまったり、料理には失敗がつき…

スイス初の培養肉企業Mirai Foodsが初の資金調達、培養肉の市販化を目指す

スイスの培養肉企業Mirai Foodsが初となるシードラウンドで210万スイス…

夕飯の準備は出社前の2分で完了!冷蔵機能のあるスマート調理器具Suvie

仕事の帰宅途中、スーパーによって食材を購入し、自宅で夕飯の支度をする…そ…

米イート・ジャストがシンガポール最大の植物性タンパク質工場の建設を開始

アメリカ、カリフォルニアを拠点とするイート・ジャストは、シンガポールで新しい生産…

精密発酵レポート予約注文受付中

培養魚企業レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

▼運営者・佐藤あゆみ▼

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(06/09 18:06時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(06/09 21:46時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(06/09 15:17時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(06/09 08:26時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(06/09 17:47時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP