出典:Aspyre Foods
多くの植物分子農業スタートアップが登場する中、ウキクサからルビスコとカゼインの二成分を共抽出する新たな取り組みが確認された。
カリフォルニアと南アフリカ共和国に拠点を置くAspyre Foodsは、ウキクサを「工場」としてカゼイン(乳タンパク質の1種)とルビスコの2つのタンパク質を開発するプラットフォームを構築している。
分子農業とは、植物を活用してカゼインなど特定成分を生成する手法をいう。国内ではKinishが植物性アイスクリームの開発と並行し、長期的にイネを活用したカゼインの開発に取り組んでいる。
分子農業によるカゼイン開発では、イネ(Kinish)、大豆(Mozza Foods)、ベニバナ(Miruku)、ジャガイモ(Finally Foods)などの植物の活用が確認されているが、ウキクサを活用してルビスコ・カゼインを開発する取り組みは、確認できる限りでAspyre Foodsが初となる。
Plantible Foodsなどルビスコの単独抽出に特化する企業とも異なり、単位バイオマス当たりの価値を二層で引き出す戦略といえる。
共同創業者のThomas Bartleman氏はAgFunderのインタビューで「いくつかのスタートアップが分子農業で組み換え乳タンパク質を生産する植物を開発していますが、同じ植物からルビスコも抽出できれば経済的により有利になります」と述べている。
「グラム当たりの価値を最大化」

出典:Aspyre Foods
公式サイトによれば、Aspyre Foodsは目的のタンパク質を高純度かつ安定的に生産するようウキクサ株を開発。ウキクサは閉鎖系のモジュール式培養池で栽培され、24~48時間で収穫される。
AgFunderの報道によれば、ルビスコの抽出プロセスは十分に機能しており、Aspyre Foodsは現在、同じウキクサからカゼインとルビスコを同時に取り出す共抽出プロセスを開発している。ただし、カゼインについては、2種類のカゼインを別の発現系で生成。
ウキクサからカゼイン・ルビスコを生成することで、単一原料から複数の価値を取り出すことが可能となる。
Bartleman氏は「ウキクサと分子農業を組み合わせることで、規模を拡大し、新たなカテゴリーを開拓し、生産する1グラムあたりの価値を最大化することが可能になります」と公式サイトで述べている。
ルビスコは緑色の葉に含まれる光合成関連タンパク質であり、地球上で最も豊富なタンパク質といわれる。乳タンパク質の1種であるホエイや、大豆たんぱく質に匹敵、あるいはそれ以上の機能性を持つことが報告されており、ニュージーランドのLeaft Foodsは製品化に成功し、日本進出も目指している。
Aspyre Foodsのユニークな点は、カゼインだけでなくルビスコも抽出することで、原料としての価値をさらに高めようとしていることだ。特にホエイに匹敵する機能性を持つルビスコとカゼインの組み合わせは、本物の乳タンパク質に機能をより近づける上でも有効と考えられる。
最近の論文によれば、ウキクサは急速増殖(種や培地条件により1.43–4.54日で倍化)、高バイオマス、広い環境適応性(18–35℃、pH 4.5–8.5で良好)を備え、攪拌のない静置水でも栽培可能なことから、分子農業の宿主プラットフォームとして有望視されている。
さらに、大豆やトウモロコシを上回るタンパク質収量の高さ(年あたり約2,080 kg/ha)や、培養液へのタンパク質分泌能の報告がある点は抽出・精製の簡素化に資する可能性がある。
一方で、大規模生産システムが確立されていないこと、形質転換効率に限界があること、ゲノムデータベースがまだ不整備といった課題が、幅広い応用を阻んでいるとも指摘されている。
Aspyre Foodsの取り組みがウキクサの分子農業としての可能性を解き放つものになるか、今後の動向が注目される。
※本記事は、公式サイト、海外メディアの記事、論文もとに、Foovo独自の整理と分析を加えて執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
関連記事
アイキャッチ画像の出典:Aspyre Foods