『2040年の未来予測』を読んで、自分が高齢者になるころの介護サービスに不安を抱いた人もいると思う。
若い人が減り、高齢者が街にあふれる未来、重くのしかかる問題が介護施設などでの人材不足だ。
少子高齢化は発展途上国でもじわじわと進んでおり、いつまでも外国人労働者に頼るわけにはいかない。
そこで、頼りになるのがテクノロジーだ。
テクノロジーがさらに進歩すれば、労力を必要とする工程を自動化し、将来の労働者不足の有効な対策となる。
日本発のスタートアップ企業スマイルロボティクスは、レストラン、ホテル、介護施設などで活躍できる配膳ロボットを開発している。
配膳・回収を無人化で行う自律走行型ロボット
Pubu Roboticsなど海外でも配膳ロボットを開発する企業はあるが、スマイルロボティクスはさらに先を行く。
これまでの配膳ロボットはロボット台から料理をテーブルへ移動させるときに、人が取り出す必要がある。
回収のときも、人が皿などをロボットの中に置かないといけない。
これに対し、スマイルロボティクスのロボットACUR-C(アキュラシー)は、配膳・回収まですべてロボットが自動で行う。
つまり、これまでの配膳ロボットと比較して、ロボットアームを有し、配膳・回収が無人化されたことが差別化ポイントとなる。
自律走行+ロボットアームをかけあわせることで、店員も顧客も、ロボットとテーブル間の皿の乗せ換えが不要となる。
完全に自律走行するロボットなので、天井、床、テーブルに目印をつける必要も、遠隔操作も必要ない。
ロボット内部には上下に移動する棚があり、複数のトレーを回収できる。
人間1人が同時に回収できるトレーの数には限りがあるが、棚の数を増やすことで、安定して、落とすことなくトレーを回収できる。
ロボットには2つのレーザーセンサー、4つの3Dカメラが搭載され、360度全方位を認識する。人や障害物を認識すると、停止する仕組みだ。
動画では、配膳するテーブルをアプリで選ぶと、自動でロボットが動き出し、配膳する様子が確認できる。
スクラムベンチャーズのグローバルプログラムに参加
スマイルロボティクスは、スクラムベンチャーズが主催するグローバル・オープンイノベーション・プログラム「Food Tech Studio – Bites!」と「SmartCityX」に採用されている。
「Food Tech Studio – Bites!」は、日本を代表する食品関連企業と世界中のスタートアップが協働し、「新しい食の産業」の創出を目指すグローバルプログラム。
「SmartCityX」は、大企業と世界中のスタートアップが協働し、生活者目線で価値の高いサービスやアプリケーションを作り出していくグローバルなプログラム。
「SmartCityX」については、国内のロボットスタートアップとしては唯一の採用となる。
スマイルロボティクスはこれらのプログラムを活用し、外食産業以外への展開も視野にいれている。
具体的な展開先として、スーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンター、コンビニ、介護施設、医療施設などをあげている。
無人化の配膳ロボットがもたらすメリット
ACUR-Cのように、配膳・下膳を無人化したロボットが活躍する場はこれからますます増える。
配膳・回収を無人化するメリットは、労働力不足の解消だけでない。
スタッフが運ぶ場合と比べ、料理と人の接触時間が減る。
忙しい時間帯では、レストランのホールスタッフは同時に複数の料理をテーブルまで運ぶ。
スマイルロボティクスの配膳ロボットを使えば、運ぶ過程からテーブルに置くまでのプロセスで、人との接触時間を減らせる。
ロボット内部に料理が置かれるため、移動中にホコリなどが付着する心配もない。
スマイルロボティクスの配膳ロボットACUR-Cにテーブルを拭く機能もついているかはわからないが、同社のロボットは冗長自由度をもつロボットアームを採用しているので、今後はテーブルを拭く機能も追加されていくのではないだろうか。
冗長自由度とは、「自由度に余裕がある」ことを意味する。
冗長自由度のあるロボットアームとはつまり、作業を器用にこなせるということ。人間が楽な姿勢や狭い場所でも作業しやすいように腕の動きを細かに変えられるように、臨機応変に腕の動きを変えられることを意味する。
また、ACUR-Cは対象との距離を測ることで、物体がどこにあるかを検知するDepthカメラを採用している。これにより、難しいとされたトレーの回収も無人でできるようになった。
個人的に期待したい機能として、トレー回収後にテーブルに残っているティッシュやゴミも、Depthカメラが認識して、アームで回収し、テーブルをふきんで拭くこともできるようになれば、応用の場所が広がるだろう。
エンジニア全員がSCHAFT出身のスタートアップ
スマイルロボティクスは創業者もロボットエンジニアという数少ないスタートアップ企業。
2019年に設立され、エンジニア全員が東大発のベンチャーSCHAFT出身という選りすぐりの精鋭で構成される。
SCHAFTはGoogleに買収された後、ソフトバンクに買収されたロボットベンチャー企業。
2013年に開催されたアメリカ国防総省の機関が主催したロボット競技大会「DARPA Robotics Challenge」で、予選をトップで通過して注目を集めた企業だ。
SCHAFT出身の小倉崇氏が創立したスマイルロボティクスは、これまでに4500万円の出資をうけている。
20年後には深刻な労働者不足を迎える日本だが、スマイルロボティクスのロボットと、たとえば、ラトビア・カナダのRoboEatzのような自律調理ロボットをかけあわせれば、医療施設や介護施設での人不足を解消できる見込みがある。
暗い見通しに明るい光を差し込んでくれる可能性がテクノロジーにはある。
参考記事
Smile Robotics Makes an Autonomous Table Bussing Robot
スマイルロボティクスが国内唯一のロボットスタートアップとして、グローバル・オープンイノベーション・プログラム「SmartCityX」に採択
全自動下膳ロボを開発したスマイルロボティクス「Food Tech Studio – Bites!」に採択
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アイキャッチ画像の出典:スマイルロボティクス