アグテック

インドネシア企業Mycotech Labが開発した動物を犠牲にしないキノコ由来の皮革Myleaとは

 

インドネシアにはテンペという伝統食品がある。

テンペは日本の納豆のように大豆を発酵させてつくられるもので、ブロック状で、納豆のような独特の匂いはなく、糸を引かず、クセがないので食べやすい。

インドネシアの伝統食品「テンペ」

そのため、インドネシアでは広く料理に使用されている。

近年、欧米や日本でも注目を集めているテンペだが、インドネシアには昔からあるものだった。

Mycotech Labは、このテンペに着想を得て、同じ製造方法でレザー(皮革)を作ることを思いついた

同社はテンペを作るための発酵技術を使って、食品ではなく皮革を作る試みを始めた。原料として使うのは、キノコの根の部分である菌糸体

菌糸体のイメージ magic-mushrooms-shop.comから引用、追記

菌糸体とは、普段食べるキノコとは別の部分のことで、キノコの根に相当する部分をいう。糸状の形をしていることから菌糸体と呼ばれる。

Mycotech Labは2016年からさまざまなキノコを使って試行錯誤を繰り返した結果、ついに結合力のあるキノコの菌糸体を見つけ出した。

出典:Mycotech Lab

おがくずの中で成長した菌糸体からおがくずを取り除き、異なるサイズにカットしたのが、主力商品「Mylea」だ。

Myleaは本物のように繊維状でありながら丈夫にできている。

しなやかで、耐水性で、もちがよいのはもちろん、化学繊維を使った合成皮革や動物の皮を使った本物の皮革(本革)よりもはるかにサステイナブルだ。

菌糸体から10平方メートルの革、つまり縦2.5m、横4mほどの大きさの革を作るのに3週間かかるが、牛を飼育する期間に比べれば、はるかに短い。

Myleaを使ったサンダルの試作品 出典:Mycotech Lab

合成皮革よりも製造コストは安く、本革と比べ排出する二酸化炭素や使用する水・土地は少ない。

Mycotech Labは染料にもこだわる。

本革をなめすのに利用される化学物質は生分解性ではないため環境に悪影響があるが、Mycotech Labは革の染色にも、根、葉、廃棄された食品から抽出された天然染料を使用する。菌糸体から作られた革は、動物由来の本革よりも染料の吸収が早いという。

きのこを原料に皮革を作る企業にはサンフランシスコを拠点とするMycoWorks、カリフォルニアを拠点とするBolt Threadsなどがあるが、Mycotech Labは自国の文化に端を発している点が興味深い。

出典:Mycotech Lab

Mycotech Labのキノコ由来の皮革Myleaは、財布、時計、靴を製造するブランドに提供されている。

Mycotech LabはB2Bのビジネスモデルで、地元や海外のブランドにMyleaを販売し、購入した企業がMyleaを使って製品を製造する流れとなる。

持続可能な皮革を求める需要の高まりのおかげで、創業以来、マーケティング費用をかけずに顧客を獲得しているという。

地元ではスニーカーブランドBro.doと提携しており、Bro.doはMyleaを使って時計ベルトやバッグなどを作っている。同社は日本などほかの市場へも進出を考えている。

また、Mycotech Labはスイス連邦工科大学チューリッヒ校、シンガポール工科デザイン大学(SUTD)などと協力して、建築材料の目的で菌糸体合成材料の使用を調査している。

出典:Mycotech Lab

他社からも多くの注文が入っており、すでに2027年まで注文が入っているという。

Mycotech Labによると、生産施設はすでにフル稼働の状態で、今後は生産施設を拡大する予定でいる。生産施設が拡大されれば、市場により多くの商品を投入できるようになる。

これまでにMycotech Labはクラウドファンディングで200万ドルを調達しているほか、2018年にはスタートアップ企業やエンジェル投資家から非公開の出資を受けている。

現在、公式サイトで25万ルピア(約1900円)でMyleaのサンプルキット(5色)を販売している。

 

参考記事

Mycotech: The Indonesian Startup Making Mushroom Leather Inspired By Tempeh

This startup by an Indonesian farmer produces ‘leather’ used in shoes and wallets without killing a single animal

Time for fungus? Indonesian watchmaker turns to mushroom leather

 

アイキャッチ画像の出典:Mycotech Lab

 

関連記事

  1. カナダのTerra Bioindustries、ビール粕由来のタ…
  2. Fresh Insetが開発した食品鮮度保持技術Vidre+Co…
  3. ドバイが次のフードテックハブになる?UAEがドバイにフードテック…
  4. 二酸化炭素からタンパク質を作る英ディープ・ブランチ、アイスランド…
  5. 塩水で作物を栽培するサウジアラビアのRed Sea Farmsと…
  6. マイクロ流体チップによる農業用栄養分析デバイスを開発したNord…
  7. Apeel Sciences、鮮度を保てるプラスチックフリーなキ…
  8. Pairwiseがゲノム編集野菜を上市するためConscious…

おすすめ記事

ドイツのMEATOSYS、農家を中心とした培養肉生産システムを開発 – 2028年の市場投入を目指す|創業者インタビュー

試作した培養牛肉 出典:MEATOSYS GmbHドイツの培養肉企業MEATOSYSは、農家が自…

二酸化炭素、水素、微生物からタンパク質を作る米NovoNutrientsが約5.1億円を調達

工業的に排出された二酸化炭素、水素、微生物を活用して代替タンパク質を開発するNo…

ソーラーフーズが約13億円を調達、来年前半に商用工場Factory 01を稼働

二酸化炭素と微生物を活用して代替タンパク質ソレインを開発するソーラーフーズ(So…

Haofoodはピーナツを使用した代替チキンで約4.5億円を調達

上海のHaofoodはピーナツタンパクを用いたビーガンチキンで、350万ドル(約…

培養肉生産の複雑さを乗り越える(Gelatex-Athanasios Garoufas氏による寄稿文)

本記事は、Gelatex Technologies(エストニア企業)で最高事業開…

Joes Future Foodが中国初の培養豚バラ肉を発表、中国政府も細胞農業を重視

中国の培養肉企業Joes Future Foodは先日、南京国立農業ハイテク産業…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

最新記事

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(12/29 16:28時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(12/29 03:09時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(12/29 06:45時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(12/28 22:27時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(12/29 14:28時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(12/29 01:51時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP