ノースカロライナ州を拠点とするスタートアップ企業Biomilqが、ヒトの母乳を体外で培養することに成功したことを発表した。
具体的には、Biomilqの製品にヒトの母乳に含まれるタンパク質、複合糖質、脂肪酸、生理活性脂質に匹敵する多量栄養素プロファイルがあることが確認された。
Biomilqは細胞を培養して代替母乳を開発するスタートアップ。
自身が子どもに授乳できない悩みを経験した共同創業者Leila Strickland氏が、マーク・ポスト教授が発表した培養ハンバーガーに衝撃を受け、代替母乳の開発を決意し、設立した。
同社は2020年2月、ヒトの母乳で大切な成分である、カゼイン(タンパク質)とラクトース(炭水化物)の作製に成功した。
今回の発表で、生物学的に同等ではないものの、栄養的に同等な母乳を体外で生成できることが示された。
やむを得ない事情により授乳できない女性へのソリューションに
細胞農業によりヒトの母乳を製造することは、代替母乳のオプションを増やす重要な一歩となる。
健康上の理由、仕事による必要性、母乳が出ないなどの理由により授乳できない母親にとって、ヒトの母乳の栄養成分に近い代替母乳は貴重なオプションとなる。
Biomilqも、8割以上の女性が推奨される6ヶ月間を待たずに市販の調整ミルクに切り替える理由として、母乳不足、医療上の理由、仕事事情など必要性に迫られていることを開発の動機にあげている。
ただし、Biomilqの代替母乳はヒトの母乳と生物学的に同等ではない。
ヒトの母乳は乳児の状態に合わせて、リアルタイムで成分が変わるため、個々の乳児に合わせて産生されるオーダーメイドミルクといえる。これを体外で再現するのは難しい。
しかし、Biomilqの栄養的に同等な代替母乳は、無菌管理された体外の環境で製造されるため、ヒトの母乳中に検出されることが多い環境毒素、食物アレルゲン、薬剤などは含まれないというメリットがある。
現に最近の調査では、アメリカの母親50人から採取した母乳サンプルすべてに、「永遠の化学物質」と呼ばれるPFASが含まれていたことが報告されている。
Biomilqの培養母乳は、完全にヒトの母乳に代わるものではないが、安心で栄養のある乳児用ミルクの新たなオプションとなる。
同社も本物の母乳にとって代わることを望んではおらず、乳児にとって栄養があり、地球にとって優しい新たなオプションを提供したいと考えている。
Biomilqによると、生産が稼働すれば、細胞から母乳生産まで6~8週でできるという。
最終的には、生検で個人の細胞を採取し、カスタマイズされた母乳を生産したいと考えている。
高まる乳児用調整乳の需要
乳児用調製乳産業は2026年までに1030億ドル規模になると予想されており、持続可能で栄養面でも本物の母乳に近い代替母乳のオプションにはさらなる需要が見込まれる。
細胞培養により代替母乳を作ろうとする試みはBiomilqだけではない。
直近では、ネスレが乳腺開発と授乳に詳しい専門家を募集しており、細胞培養母乳へ参入する可能性が指摘されている。
すでに開発を進めている企業には、シンガポールのTurtle Tree Labs、イスラエルのBio Milkがいる。
また、スペインの乳製品メーカーCalidad Pascualは、細胞農業による乳製品開発を促進するためのインキュベーションプログラムを始動している。これは、既存の乳製品企業が代替ミルクの開発を支援する世界初の試みとなる。
Biomilqは具体的な市場参入時期については明らかにしていないものの、体外で栄養的に同等な母乳の生成に成功したことは、大きなブレイクスルーであるのは間違いない。
参考記事
BIOMILQ Successfully Makes Human Milk Outside of the Breast
Biomilq Says It Has Successfully Produced World’s First Cell-Cultured Human Breast Milk
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アイキャッチ画像の出典:Biomilq