アグテック

フードロスに取り組む米Apeel Sciencesが約274億円を調達

 

フードロスに取り組む米Apeel SciencesがシリーズEラウンドで2億5000万ドル(約274億円)を調達した。

このラウンドはシンガポールの政府系投資会社テマセクが主導し、Mirae Asset Global InvestmentGICViking Global InvestorsDisruptiveAndreessen HorowitzTenere CapitalK3 Venturesなどが参加した。この調達により、Apeelの調達総額は6億4100万ドル(約703億円)となる。

Apeelは、野菜が自身を保護する部分からオイルを抽出し、スプレーとして野菜に吹きかけることで、野菜の鮮度を維持する技術を開発している。

キュウリ、アボカド、リンゴなどにスプレーを吹きかけると、野菜・果物の表面に見えない「コーティング」が形成され、生鮮食品の水分が保持され、酸化を防ぎ、通常の2~3倍長く保存できる。

出典:Apeel Sciences

Apeelのコーティング技術はアメリカのウォルマート、クローガーなどで導入されており、現在、アメリカを含む8カ国の小売業者40社、サプライヤー30社と協業している。

Apeelは調達した資金で、現在8カ国で構築した供給ネットワークを30カ国に広げ、年末までにアメリカ、カナダ、メキシコ、南米、南ヨーロッパで協業するサプライヤーをさらに10社増やすことを目指している。

Apeelは5月にImpactVisionを買収した。ImpactVisionは、内部を可視化するハイパースペクトルイメージング技術を有する機械学習、フードテック、センサーに特化するスタートアップ企業。

買収により、野菜・果物の内部を調べ、成熟度、鮮度、植物栄養素含有量に関する情報を収集できるようになった。これらの情報を活用することで、サプライヤー、卸売業者は、各農産物の状態に応じて、出荷先をどこへするか決めることができる。

出典:Apeel Sciences

これはApeelにとって最初の買収となった。

同社は今回調達した資金を、より多くの買収に使用する可能性があるともコメントしている。特に、データ機能を拡張し、農産物の外部・内部の品質の理解を深めることができる企業を視野に入れている。

Apeelはフードロスに取り組むと同時に、発展途上国の小規模農家の支援活動も開始している。

コールドチェーンのインフラが十分に整備されていない地域では、農産物がマーケットに届くまで、農産物の鮮度を維持できないことがフードロスの主な原因となっている。

共同創業者のジェームズ・ロジャーズ氏(中央) 出典:Apeel Sciences

Apeelは最近、小規模農家向けの直販サイトFruitStandのサブスクプランを開始した。FruitStandで購入した農産物は、Apeelのスプレーで「保護」された状態で発送される。

月額36ドルで、会員になると、特別オファーの15%割引、メンバー限定のライブチャット・イベント、送料無料などの特典を得られる。

FruitStandについて、共同創業者のジェームズ・ロジャーズ氏は次のように語っている。

「現時点で、(FruitStandは)Apeelが注力していることではありません。ごく初期のパイロットモードですが、長期的には、小規模農家と協力し、農産物を消費者の玄関先に直接届けられることを示すことができますので、価値があると信じています」(共同創業者のジェームズ・ロジャーズ氏)

生鮮品の鮮度を保持するソリューションに取り組む企業にはApeelのほかに、農産物に貼るだけで鮮度を保持するシールを開発したRyp Labs、輸送箱に入れる小袋タイプを開発するHazel Technologies、鮮度を保持する特殊コンテナを開発するRipeLocker、数秒で農産物の状態、保存期間を検査するOneThirdなどがいる。

出典:Apeel Sciences

現在、世界の食品の3分の1が毎年廃棄されている。アメリカだけで年間約4,080億ドルに相当する食品が廃棄され、これはアメリカの温室効果ガス全体の4%を占めている。

これらの食品廃棄は、消費者が購入後に腐敗したものから、スーパーで販売されなかったもの、輸送中、収穫後に痛んだものなどが含まれる。

国連は、フードロスを主要な課題の1つと考え、持続可能な12の目標の1つに設定。2030年までに1人あたりの食品廃棄量を半分にすることを目標に掲げている。

 

参考記事

Apeel Raises $250 Million to Accelerate Its Fight Against Food Waste

Apeel hits $2B valuation with $250M investment

 

おすすめ記事

関連記事

  1. ゲノム編集で食・農業の変革を目指す米Pairwiseが新たな戦略…
  2. コカ・コーラ、ペットボトルなど容器を回収するリバース自販機を発表…
  3. 植物工場のスプレッドが40億円を調達、代替肉・いちごの新規事業を…
  4. Fresh Insetが開発した食品鮮度保持技術Vidre+Co…
  5. アイルランド企業Evoccoは食料品レシートから気候変動への影響…
  6. 新鮮な食材を買える自販機3.0のFarmer’s fridgeが…
  7. 農業データ収集ソフトのArableが約20億円を資金調達
  8. 米セブン-イレブンとNuroがカリフォルニアで自動運転車による配…

おすすめ記事

なぜ今、食品メーカーが手を組むのか?|共通課題に挑む「未来型食品工場コンソーシアム」

今年7月、食品業界における共通課題の解決を目指す取り組みとして「未来型食品工場コ…

廃棄カリフラワー由来の植物アイスクリーム|EatKindaがニュージーランドを一時撤退してアメリカ市場参入を目指す理由

ニュージーランド発のスタートアップEatKindaは、見た目が悪かったり、サイズ…

香港IXON社が肉を2年間常温保存できるASAP技術を開発

香港のスタートアップIXON Food Technologyは画期的な食品保存方…

ビーガンハチミツのMeliBio創業者に聞く|精密発酵によるハチミツの開発とターゲット市場

「地球上からミツバチが消えたら、人間は4年しか生きられない」というアインシュタイ…

プラスチック使用削減のために食用スプーンを開発したIncrEDIBLE Eats

食事で使用されるプラスチック製品を減らすために、食べられるスプーンが登場した。…

ネスレがFuture Meatと協業して培養肉参入に向けて準備

ネスレが培養肉事業に参入する準備を進めている。ネスレが培養肉と植物肉をブ…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(04/24 15:02時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(04/24 00:50時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(04/24 04:47時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(04/23 21:03時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(04/24 13:06時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(04/24 00:05時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP