代替プロテイン

二酸化炭素、水素から脂肪を開発する米Savorがバター試作品を開発

 

カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くSavorはこれまでと異なるアプローチで代替脂肪を開発している。

Savorは、二酸化炭素、熱、水素、酸素を使用した熱化学プロセスで代替脂肪を開発している。同社は空気から二酸化炭素を、水から水素を取り出し、加熱して酸化させて脂肪酸を分離し、脂肪を形成するプロセスを開発した。その結果、牛乳、チーズ、牛肉、植物油脂から得られるような本物の脂肪分子を得られるという

二酸化炭素を原料にタンパク質をつくるソーラーフーズに似ているように思えるが、ソーラーフーズのプロセスでは微生物を使うのに対し、Savorは微生物を使用しない化学プロセスとなる。

Savorのプロセスでは、水、エネルギー、炭素源のみを使用して工場で脂肪を製造するため、植物油脂のように多くの土地や水を必要としない。理論的に地球上のどこでも製造できる

化石燃料を直接食品に変換

バター試作品 出典:Savor 共同創業者Henrik Bennetsen氏のLinkedIn

Savorは、Henrik Bennetsen氏Kathleen Alexander氏Ian McKay氏によって2022年に設立された。

同社は、化石燃料をエネルギー源にした牛肉、ジャガイモなどの食品を食べる代わりに、「人間が化石燃料を食べればいいのではないか?」という共同創業者Ian McKay氏の突飛ともいえるアイディアから始まった

チームは、化石燃料を脂肪、タンパク質、炭水化物などの食品に変換するために考えられるあらゆる方法を図解。

そしてわかる範囲でライフサイクル排出量、土地使用量、水使用量を算出した。次に農業由来の栄養素の排出量、土地使用量、水使用量に関する文献データを調べた。結果は、人類が化石燃料を食べれば、つまり化石燃料を食品に変換すれば、現在の農業システムよりも地球にとって劇的に良くなるというものだった。

農業なしで食料を生産する化学的プロセスに着目した分析結果は、「Food without agriculture」のタイトルで昨年、nature sustainabilityに掲載された。

同論文によると、ブラジルやインドネシアで生産されるパーム油による温室効果ガス排出量を二酸化炭素換算量にすると1.5g/kcalを超えるのに対し、化学合成される脂肪に伴う二酸化炭素換算量は0.8g/kcal未満と、環境負荷が低いことが示されている。

研究チームは論文の中で、タンパク質、脂肪、炭水化物のうち、脂肪から着手した4つの理由を挙げている

  • 脂肪は熱化学的に合成するのが最も簡単な栄養素の1つである
  • 脂肪は過去に大量合成に成功した唯一の主要栄養素である
  • 脂肪は多くの食品において味覚的に区別されない「ベースロードカロリー」である
  • 大豆やパームなどの油糧作物による環境負荷は大きい

脂肪の合成生産は技術的に準備ができた状態で、経済的に実現可能であり、影響をもたらす可能性が高いことを突き止めたSavorは、これまでに化石燃料で作られたバター試作品を生成している(下記写真)。

出典:Savor

Savorが作る脂肪は、天然ガスなどの化石燃料、または補足した二酸化炭素とグリーン水素から作られるが、後者の場合、排出量をより減らせるもののコストが高くなるとしている。

スウェーデンでも脂肪を化学合成する企業が登場

出典:Savor   氏のLinkedIn

今年2月、ビル・ゲイツ氏は「Savorの製品を食べてみたが、バターを食べていないとは信じられなかった」と評価した

Savorは代替バターから着手するが、ミルク、アイスクリーム、チーズ、肉、植物油脂の代替品を開発する予定だ。今年取得した特許からは、食品だけでなく洗剤や化粧品などさらに幅広い業界を視野にいれていることがよみとれる。

同様の試みはSavorだけではない。スウェーデンのGreen-Onもまた、二酸化炭素、水素、酸素を使用した化学プロセスにより代替脂肪を開発している。同社もバターチーズココナッツオイルなどの代替品を開発済みで、大手油脂メーカーとも提携している

 

参考記事

Behind the Scenes of our Article in Nature Sustainability

Savor Successfully Develops Dairy & Plant-Free Butter From CO2 and Hydrogen

Food without agriculture

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Savor

 

関連記事

  1. ビヨンドミートの新商品ソーセージ、10月から全米の食料品店で販売…
  2. イスラエルの精密発酵企業Remilk、アメリカで上市を実現
  3. イート・ジャストがシンガポールにアジア初の生産拠点を建設、培養肉…
  4. 【現地レポ】シンガポール展示会(Agri-Food Tech E…
  5. ミツバチを使わない「本物のハチミツ」を開発する米MeliBio
  6. フードテックで注目|精密発酵セミナー開催のお知らせ
  7. イスラエルのWilk、研究室でヒトラクトフェリンの生産に成功
  8. 二酸化炭素、電気から乳タンパク質の生成へ|ソーラーフーズの新たな…

おすすめ記事

国内初|グリーンカルチャーが植物性ゆで卵の開発に成功

植物肉Green Meatで知られる日本のスタートアップ企業グリーンカルチャーが…

シンガポールの代替肉企業Next Genがシードで約10億円を調達、3月にシンガポールで発売へ

シンガポールを拠点に代替鶏肉を開発するNext Genはシードラウンドで1000…

香港の代替肉企業グリーンマンデーが植物ベースの代替魚に参入!

香港発の代替肉スタートアップ企業グリーンマンデーが、代替豚肉に続いて代替魚に参入…

タイソンフーズが出資するFuture Meatが培養鶏肉のコストダウンに成功、2022年に市販化へ

イスラエルの代替肉企業Future Meatは、自社の培養鶏肉の生産コストを1/…

英Ivy Farm、欧州最大の培養肉パイロット工場をオープン

イギリスの培養肉スタートアップIvy Farmが、培養肉のパイロット工場を正式に…

代替魚・代替シーフードベンチャー企業25社まとめ【2021年版カオスマップ】

この記事では、代替魚・代替シーフードの開発に取り組む国内外のベンチャー・スタート…

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

精密発酵レポート・予約注文開始のお知らせ

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(11/08 14:02時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(11/07 23:35時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(11/08 03:21時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(11/08 19:56時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(11/08 12:14時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(11/07 22:53時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP