微生物発酵で代替タンパク質を開発する米Nature’s Fyndが、最初の商品を発表、公式サイトで予約注文を開始した(すでに完売)。
昨年の報道では今年の商品発売を予告していたものの、最初の商品が何になるか明らかにされていなかったが、このほど、クリームチーズ、パテ(代替肉)の新作を発表。
いずれもアニマルフリーで、微生物の1つとなる菌類をベースにした代替タンパク質『Fyプロテイン』を使用している。
Nature’s Fyndはアメリカ・シカゴを拠点とするスタートアップ企業。
Fusarium strain flavolapisと呼ばれる極限環境微生物由来の菌類タンパク質Fy Protein(Fyプロテイン)を開発している。
Nature’s Fyndが菌類由来のタンパク質を使った新商品を発表
Nature’s Fyndのように微生物を発酵させて代替タンパク質を作る企業は増えており、「発酵タンパク質」は代替タンパク質の第3の柱とされ、注目されている。
同社の場合、使用する微生物が、アメリカのイエローストーン国立公園の熱水泉に生息する微生物であるのが特徴だ。
独自の発酵技術で菌類(菌類は微生物の1つ)に栄養を与えて発酵させる。
数日すると、細糸が織り交ざって筋肉繊維のような層が形成される。これを収穫して、蒸す、圧搾、洗浄、スライスといった加工を施し、Fyプロテインにする。
こうしてできたFyプロテインは固形、液体、粉末に形を変えることができ、さまざまな食品に使うことができる。
Fyプロテインは、9つの必須アミノ酸、食物繊維、カルシウム、ビタミンを含む完全なタンパク質。
今回Nature’s Fyndが発表したのは、Fyプロテインを使ったクリームチーズとパテ。
いずれもアニマルフリーなタンパク質だ。
クリームチーズは、Fyプロテイン、ココナッツオイル、砂糖を材料に使い、28gあたりタンパク質を1g含む。
代替肉(パテ)は、Fy Proteinが主原料で、大豆、ソラマメを使用しており、70gあたりタンパク質を12g含む。
ゲイツ氏、ゴア氏が出資するスタートアップ
Nature’s Fyndは昨年12月に約46億円を調達した。
これまでに1億5800万ドル(約166億円)という巨額の出資を受けている。
さらに、ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏、アル・ゴア氏などのファンドから出資を受けており、注目される企業だ。
出資者の1人、ゲイツ氏はアメリカのドキュメンタリー番組「60 Minutes」に今週登場。
家畜がもたらす温室効果ガスの影響を減らすため、ゲイツ氏はインポッシブルフーズやビヨンドミートの植物肉企業に投資している。
しかし、植物肉の原料となる植物を栽培する過程でも温室効果ガスが排出されることに番組は言及したうえで、「全く新しい食品源」を創出する企業Nature’s Fyndが紹介された。
番組ではゲイツ氏と司会役のアンダーソン・クーパー氏がNature’s FyndのFyプロテインを使ったヨーグルトを試食した。
名だたる投資家のほかにも、米国環境保護庁、アメリカ国立科学財団(NSF)がこれまでにNature’s Fyndに助成金を支給している。
サステイナブルな発酵タンパク質
Nature’s Fyndの菌類ベースのタンパク質は畜産と比べ、使用する土地は1%、排出する温室効果ガスは1%、使用する水は13%ですむ。
土地利用の効率性は動物性タンパク質の3.6倍、植物性タンパク質の1.8倍だという。
Nature’s Fyndのように微生物(菌類は微生物のカテゴリーに含まれる)を発酵させて代替タンパク質を作る企業は、大きく次の3つに分類される。
- 従来の発酵
- バイオマス発酵
- 精密発酵
微生物発酵に取り組む企業のうち、従来の発酵技術を活用するのはわずかで、残りの半数はバイオマス、半数は精密発酵とされる。
つまり、微生物発酵で代替タンパク質を開発する企業の大部分がバイオマス発酵または精密発酵となる。
バイオマス発酵と精密発酵の違いを簡単に説明すると、微生物を培養して食用タンパク質にするのがバイオマス発酵、「生産工場」として微生物を使い、最終産物には分泌物だけが残るものが精密発酵となる。
Nature’s Fyndは「バイオマス発酵」に分類され、微生物を培養して食用タンパク質にする。
同社はliquid air surface interface fermentation(気液界面発酵(仮訳))という技術を発明し、菌類に栄養を与えてFyプロテインに変える。
これに対し、精密発酵の代表格であるパーフェクトデイは、微生物に乳タンパク質を作るDNAを組み込み、微生物に乳タンパク質を作らせる。乳タンパク質ができたら、「生産工場」である微生物は取り除かれ、最終産物には含まれない。
つまり、Nature’s Fyndの場合、培養した微生物が食用タンパク質になるが、パーフェクトデイでは微生物は「生産工場」であり、最終産物には含まれないのが違いとなる。
菌類ベースのタンパク質に取り組む他社
Nature’s Fyndのように菌類タンパク質を培養して食用タンパク質とする取り組みはほかにもある。
Meatiは菌類の中でも菌糸体と呼ばれるキノコの地中にある「根」に相当する糸状部分を使う。
Meatiは植物ベース肉では主流ではないステーキ肉を、菌糸体を使って18時間で作りだす技術を開発している。
AtLastも菌糸体を使ってベーコンを開発している。
Nature’s Fyndは新商品発表にあたり米国限定で公式サイトでの予約注文を受け付けていたが、この記事を執筆中に完売となった。
参考記事
Gates-Backed Nature’s Fynd Unveils Initial Products Made From Fermented Fungi
State of the Industry Report : Fermentation(GFI)
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アイキャッチ画像の出典:Nature’s Fynd