精密発酵で脂肪を開発するオーストラリア企業Nourish Ingredientsは今月、シドニーで開催されたイベントSXSW Sydneyで同社初の製品となるアニマルフリー脂肪「Tastilux」を発表した。
同社は「Tastilux」について、植物タンパク質に「本物の肉の風味と調理反応」をもたらす成分だと述べている。
3年半かけて開発した精密発酵脂肪
イベントでは、植物タンパク質と「Tastilux」を使用した代替チキンが発表された。この代替チキンにはカルシウムを使用した食用骨が使用されていたという。
Nourish Ingredientsは「味覚体験に最も重要」な脂肪が見過ごされている現状に注目し、アニマルフリーな成分から脂肪を作りだすことに注力してきた。
精密発酵技術を使用した「Tastilux」は、世界中の食品・原料メーカーに「従来の肉のように調理できて、香り・風味のある脂肪」を提供するため、3年半かけて開発されたものとなる。
調理イノベーション部長を務めるErnesto Vecilla氏は、「Tastiluxを植物タンパク質に添加すると、動物(肉)でみられるような自然なメイラード反応をしっかりとおこさせることができます」と述べている。
SmartCompanyの報道によると、Nourish Ingredientsは現在、植物肉市場をターゲットとしている。
植物性原料から作られる代替肉は、キャノーラ油、ひまわり油、ココナッツオイル、パーム油などを使用しているが、植物油脂は風味の点で動物脂肪に劣るだけでなく、ココナッツオイルなど融点が低い油脂には室温で溶けだしてしまうという欠点がある。植物油脂によっては、森林伐採や労働問題の側面から問題が指摘されている。
精密発酵で作られる脂肪は、従来のビーガンオイルでは再現できなかった動物肉の風味をもたらすだけでなく、適切なタイミングで溶けだす挙動を持つ成分として期待されている。
アメリカ・シンガポールでの上市を狙う
AgFunderの報道によるとNourish Ingredientsはすでに、アメリカとシンガポールに向けた承認申請の手続きを進めている。
これまでの報道では市場に出す時期を2023年と見込んでいたが、現在は2024年後半の上市に向けて、商業パートナーとの交渉を続けている。
Nourish Ingredientsの上市時期は審査プロセスの進捗状況によるところが大きいが、精密発酵食品がすでに流通しているアメリカ・シンガポールでの上市を優先させるのは合理的だ。
アメリカではインポッシブルフーズが2018年に、精密発酵レグヘモグロビンに関するGRAS通知に対しFDAから「異議なし」のレターを受領した。乳タンパク質を開発するパーフェクトデイは、2020年にGRAS通知に対してFDAから「異議なし」のレターを受領している。
シンガポールでは2019年に精密発酵レグヘモグロビンを使用したインポッシブルバーガーが上陸。パーフェクトデイの乳タンパク質を使用したプロテイン粉末「California Performance Co」は2021年にシンガポールに上陸した(B2B事業へのシフトにより、同ブランドはすでに事業を停止している)。
Nourish Ingredientsと同様に、精密発酵で脂肪を開発するスウェーデン企業Melt&Marbleもアメリカ市場進出を目指し、現在GRAS認証の手続きを進めている。
本物の肉の風味をもたらす精密発酵脂肪は、横ばいが続くアメリカの植物肉の小売売上を改善させる促進剤になる可能性を秘めている。
参考記事
Nourish Ingredients launches Tastilux, an animal-free fat for plant-based meats
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アイキャッチ画像の出典:Nourish Ingredients