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米Mozza Foods、大豆による植物分子農業で味・品質に妥協しない代替乳製品の開発へ【創業者インタビュー】

 

動物に依存しない乳タンパク質を開発する取り組みはすでに世界的に展開されている。

読者が真っ先に思い浮かべるのは精密発酵だろう。精密発酵は、糖をタンパク質など特定成分に変えるよう微生物をプログラムする技術をいう。ヒトインスリンの合成から始まった精密発酵は、近年、食品分野でも急速に注目を集めており、アメリカでは精密発酵由来の乳タンパク質の一部が流通しているものの、カゼインはまだ流通していない。

一方、乳タンパク質開発において参入企業が増えている分野が、大豆などの植物を「ミニ工場」として同等な乳タンパク質を生成する植物分子農業だ。米カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を置くMozza Foodsもその1社となる。

共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のAdam Tarshis氏は、「牛乳に含まれるカゼインなどの汎用タンパク質を生成するために植物を利用することは、ヨーグルト、チーズ、アイスクリームなどなじみのある乳製品のコストを上げることなく、持続可能性を大幅に改善させるおそらく唯一の方法だと思います」と語る。

Mozza Foodsが取り組むのは、牛乳に存在するものと同等なカゼインミセルの開発だ。最初の用途として、アメリカで最も人気のあるチーズである、モッツアレラチーズをターゲットにしている。

カゼインは乳タンパク質の80%を占め、その独自なミセル構造が、チーズの溶け方、伸び具合、味わいなど、人々がチーズを好む優れた要素を作り出している。チーズ市場は巨大で、世界のチーズ市場は2023年には約1,870億ドルに達し、2032年までに約2,800億ドルに成長すると予測されている

Mozza Foodsの成り立ち、開発状況、今後の展望についてTarshis氏に話を聞いた。

「本物の」チーズのように溶けて味わえる代替チーズが必要

Adam Tarshis氏 出典:Mozza Foods

Mozzaのルーツは、Tarshis氏と妻のAmber Tarshis氏が2010年に設立した財団「Amber and Adam Tarshis Foundation」にある。同財団は動物福祉の向上、畜産による温室効果ガス排出量削減に取り組んでいる。

畜産由来の温室効果ガス排出量は排出量全体の約14.5%を占め。畜産は毎年推定31億2,000万トンの糞尿廃棄物を生じており、地下水汚染の主な原因の1つとされている。

動物福祉を大幅に改善し、温室効果ガス排出量を減らし、より植物をベースとした食生活へ移行するうえで消費者が食生活の何を変えられるか考えたとき、筆頭に挙がったのが代替チーズだったという。

消費者に持続可能な食品を選んでもらうには、味や品質、価格で妥協させることなく、消費者の購買意欲をそそる製品が必要であるとTarshis氏は考えた。

「消費者に持続可能な乳製品に切り替えてもらうには、それらの製品が動物由来製品とまったく同じ味と機能を備えていなければなりません。価格も同じかそれ以下であることが重要です。

誰もが持続可能性に関心を持っていますが、美味しくないものを食べなければならない時や、美味しくても高い料金を支払わなければならない時には関心が薄れてしまうものです」

しかしカゼインは、発酵、分子農業でも製造が難しいことで知られている。

出典:Mozza Foods

Mozzaは、個々のカゼインタンパク質だけでなく、カゼインミセル(牛乳に含まれるさまざまなカゼインタンパク質が自然に存在する、より高度な構造体)の生産に取り組んでいる。

「カゼインミセルを完全に再現するには、植物の各細胞に4つの異なるカゼインタンパク質が存在し、かつ、これらのタンパク質を複雑なミセル構造に組み立てるメカニズムが必要になるため、多大なエンジニアリングと新しい生物学が必要となります。

このことがおそらく、Mozzaがこの道を追求する唯一の企業であり、植物の種子内にカゼインミセルを作ることに成功した唯一の企業である理由でしょう」

Mozzaの植物を活用したタンパク質発現プラットフォームは柔軟性があり、カゼインに限定されるものではない。これまでに卵白の主成分のひとつオボアルブミンなど他のタンパク質も生成しているが、Tarshis氏は、優れた代替チーズ製品がないことが、消費者がプラントベースの食生活を受け入れる上で最大の障壁の1つになっていると感じている。

そのため、Mozzaはこの課題を克服し、優れたチーズ製品を製造するために必要な代替タンパク質を乳業メーカーに提供することに注力している。

しかし、アイスクリームのような他の乳製品に比べ、チーズは多くのカゼインタンパク質を必要とする。

Tarshis氏は、多くの代替タンパク質企業は、アイスクリームのようにタンパク質含有量がわずか2-3%の低タンパク質製品から着手していると述べた。この戦略が採用されるのは、タンパク質の生産コストが高くても、製品の最終コストにそれほど影響しないからだ。

対照的に、チーズには約30%のタンパク質が含まれている。つまり、企業は、機能性と味を完璧にするだけでなく、生産を可能にするために良好なユニットエコノミクスを実現しなければならない。

「私たちはまず、最も困難な課題を攻めることにしました。市場投入を急ぐためにアイスクリームやヨーグルトを製造する予定はありません。当社の焦点はチーズを製造することであり、費用対効果の高い方法でチーズ用のカゼインを製造できるタンパク質の発現レベルを実現するまで、研究開発を続けるつもりです」

分子農業を選んだ理由

Cory Tobin氏 出典:Mozza Foods

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 インタビュー実施時期:2024年7月中旬

 

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アイキャッチ画像の出典:Mooza Foods

 

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