イスラエルの培養肉企業Believer Meatsは、アニマルフリー培地を使用した培養鶏肉の連続生産が高い費用対効果を持つことを示す論文を発表した。
代替タンパク質の普及促進を行う非営利団体Good Food InstituteのElliot Swartz氏は本論文について、「経験的データに基づいて培養肉のコスト予測を行った初の研究」だと評価。非血清培地を1ドル/Lを大幅に下回るコストで生産できるという初期の理論計算を裏付ける論文だと述べている。
Nature foodに発表された同論文は、ヘブライ大学のLaura Pasitka氏や、Believer Meats創業者Yaakov Nahmias氏らによる共同研究となる。
論文によると、タンジェンシャルフロー・フィルトレーション(生体分子を迅速かつ効果的に分離精製する方法)を使用して培養肉の連続生産を行い、1mlあたり最大1億3,000万個の細胞からなるバイオマスを生産した。連続生産は、0.63ドル/Lのアニマルフリー培地を使用して実施した。
このデータに基づき、50,000Lの生産施設を想定して技術経済性分析(*)を実施したところ、灌流プロセスにより植物成分を50%、培養鶏肉を50%含むハイブリッド製品を1ポンド(約450g)あたり6.2ドル(約890円)で生産できる可能性が示された。
論文は、他の要因も実際の市場価格に影響を及ぼす可能性に言及しつつ、連続生産により培養肉の生産コストを削減できると結論付けている。
培養肉は従来の動物肉に代わる環境に優しい持続可能な食肉生産として期待が持たれている。ヒト向けではシンガポール、アメリカ、イスラエルで販売が認められるものの、大量生産を実現できていないため、一般普及にはまだいたっていない。
ヘブライ大学は、これまでの技術経済性分析では、工場から原材料コストに至るまで経済的な課題が指摘され、培養肉の実現性可能性に疑問が投げかけられていたとしている。
今回の論文では、工場コストを削減する新たなフィルタースタック灌流、原材料コストを削減するアニマルフリー培地、工場の生産能力を高める連続生産など画期的なソリューションを提示。50,000Lの小規模な施設であっても、USDA(米国農務省)のオーガニックチキンと同等のコストで年間2,140トンの培養鶏肉を生産できると予測している。これは日産約5,800kgに相当する。
Swartz氏は、「この重要な研究は、培養肉の経済的実現可能性を示す多数のデータポイントを提供しています。生産性を犠牲にすることなく、非血清培地を1ドル/Lを大幅に下回るコストで生産できるという初期の理論計算を裏付けるもので、コスト競争力のある培養肉を実現するうえで重要な要素となるでしょう」と述べている。
Believer Meatsは2021年に培地コストは約2ドル/Lだと発表しており、今回の発表でこれを大幅に下回るコスト削減を実現したこととなる。Nahmias氏は全体を通じて培地コストを1Lあたり50ドルから0.63ドルに削減したとリンクトインで述べている。
Nahmias氏は、灌流プロセスが高コストで、最大2,000Lの小型バイオリアクターで単回使用フィルターの使用が想定されていた時期に、これは間違っていることを確信していたと言及。解決策は5,000L、25,000Lまで拡張できる再利用可能な大規模な灌流装置に移行することだったと述べている。
さらに「連続生産は今後も続いていくでしょう」とコメント。連続プロセスは「コンタミの機会をはるかに減らし、プロセス全体の堅牢性を向上させます」と述べている。
Believer Meatsは現在、ノースカロライナ州に大型の培養肉工場を建設中であり、年末までの稼働を予定している。今年6月にはアブダビでの事業展開を視野にAGWAと提携した。
(*)技術経済性分析とは、ある技術を導入したプロジェクトの事業採算性評価、事業期間を通したキャッシュフロー調査、複数の技術オプションやスケールを変えた場合の経済性比較など、技術導入による事業者の経済的メリットを明らかにする目的で行われる分析をいう。出典:技術経済性分析に関する最近の動向と課題
参考記事
Study shows continuous manufacturing reduces cultivated meat costs
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アイキャッチ画像の出典:Believer Meats