ゲノム編集技術を活用し、5億人以上の生活を支えるバナナ、コーヒー、米といった主要な熱帯作物の改良に取り組む植物バイオテクノロジー企業Tropicが今月、同社最初の製品を市場に投入する。
2016年にイギリスで設立された同社は、農薬への依存を減らし、気候変動への耐性を強化することを目的に、熱帯作物の改良に取り組んでいる。当初コーヒーに焦点を当てていたが、その後、世界で最も重要な食料源の1つであるバナナへと研究対象を拡大した。
Tropicは、バナナのソリューションとして、バナナの2大病害であるFusarium Tropical Race 4(TR4)とBlack Sigatoka(黒シガトカ病)に耐性を持つバナナ、賞味期限を延長したバナナ、変色しないバナナの開発に取り組んできた。
同社のブログ記事によると、2025年に最初の製品を発売する予定であり、AgFunderの報道によれば、その第一陣は今月上市予定の12時間変色しないバナナとなる。さらに今年後半には賞味期限を延ばしたバナナの上市も計画されている。
変色しないバナナ・賞味期限を延長したバナナ

従来のバナナ(左)とTropicのバナナ(右) 12時間経過後の状態 出典:Tropic
バナナが褐色に変化するのは、ポリフェノールオキシダーゼという酵素により、ポリフェノール類が酸化されるためだ。カットしたリンゴやバナナの変色を防ぐために塩水に浸すのは、この酵素の働きを抑制するためとなる。
TropicはCRISPRと呼ばれるゲノム編集技術により、酵素の生成に関与する遺伝子を無効にすることで、変色しないバナナを開発した。この技術により、カットフルーツ製品などの用途で市場拡大が期待される。
AgFunderによると、非変色バナナは、従来のバナナと味、香り、甘さは同じだが、変色の速度だけが異なるという。
Tropicは、輸出されるバナナの60%以上が消費者に届く前に廃棄される現状を指摘し、非変色バナナは、サプライチェーン全体で食品廃棄物と二酸化炭素排出量を25%以上削減できる可能性があると述べている。
この非変色バナナは、フィリピン当局から遺伝子組換え(GMO)ではないと認定され、生産が認められている。さらにAgFunderによれば、コロンビア、ホンジュラス、アメリカ、カナダで認可を取得している。
Tropicは、バナナの熟成を促すエチレン生成に関わる遺伝子をノックアウトすることで、賞味期限を延長したバナナも開発している。
一般に、バナナは青いうちに収穫され、13~14度の温度で輸送されることで熟成を抑えているが、輸送できる距離には限界がある。バナナの緑色の期間を延ばすことで、収穫のタイミングを調整したり、輸送期間を延長したりすることが可能になり、冷蔵輸送コストの削減にもつながる。
Tropicは同社技術により、賞味期限を約10日間延長できるとしている。
バナナ関連技術

出典:Tropic
Tropic以外にも、バナナに関連した研究開発が進められている。
国家プロジェクトの助成を受けた中国における研究でも、CRISPR技術を用いた賞味期限を延ばしたバナナの開発が進められている。研究チームは、バナナの特定の遺伝子(MaACO1)をノックアウトすることで、収穫から60日経っても斑点のない黄色または緑色を維持させることに成功している。
オランダの研究チームは、TR4と黒シガトカ病に耐性を持つバナナ品種「Yelloway One」を開発した。「Yelloway One」は現在、試作段階にあり、オランダの温室で栽培されている。今後、フィリピンやインドネシアでの圃場(ほじょう)試験の実施が予定されている。
アメリカ企業Strellaは、長年の熟練された経験が必要とされるバナナの追熟をAIで予測するソリューションを開発している。
参考記事
Tropic to launch non-browning bananas in March, extended shelf-life bananas by year-end
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アイキャッチ画像の出典:Tropic