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「大食物観」とは何か―中国政策文書の変化から読み解く中国のフードテック戦略

2025年4月5日更新

中国では近年、政府が発表する政策文書の中で、培養肉や発酵食品など代替タンパク質への関心が高まっている。

今回の記事では、2025年に入り公表された2本の政府文書、全国人民代表大会(両会)後に中国農業科学院の党委員会が発表した最新の文書をもとに、中国政府がフードテック、特に代替タンパク質をどうとらえているのかを読み解く。

2025年2月に農業農村部が発表した「国家農業科技イノベーション重点分野(2024〜2028年)」では、農産物の重点分野の中で「代替タンパク質などの品質と安全性、栄養効果の評価に関する研究を行い、新たな資源の安全性を明らかにする」と明記され代替タンパク質が農業イノベーションの重点分野として位置づけられた(下記)。

さらに、毎年発表される政策文書「中央一号文件」では、多様な食料供給システムの構築バイオ農業の発展新たな食品資源の開拓が盛り込まれた。

「中央一号文件」:2024年との比較で見る政策の変化

この「中央一号文件」は、中央政府がその年特に重視する分野を示す文書であり、毎年発表されるため、昨年の内容と比較することで政策の変化を読み取ることができる。

2024年の文書には「バイオ農業(中国語:生物农业)」や「新たな食品資源の開拓(中国語:开拓新型食品资源)」といった文言は見られなかったが、2025年には新たに登場し、フードテックへの関心の高まりがうかがえる。

また、2024年の文書には「農業と食料に関する幅広い概念を確立し、多様なルートから食料の供給源を拡大する(中国語:树立大农业观、大食物观,多渠道拓展食物来源)」という記述はあったものの、具体例の提示はなかった

これに対し2025年は、「農業と食料を幅広い視野でとらえ、あらゆる角度から多面的に食料資源の開発を進める(践行大农业观、大食物观,全方位多途径开发食物资源)」に続き、食用キノコ産業(中国語:食用菌产业)、藻類食品の開発(中国語:藻类食物开发)など具体例が提示され、前年よりも踏み込んだ内容となっている(下記)。

「大食物観」とは何か

ここで「大食物観(中国語:大食物观)」について補足したい。

習近平総書記が2017年から提唱してきた言葉で、2022年の両会では「食糧問題を解決するには、限られた耕地だけに注目するのではなく、思考を広げ、“大食物観”を確立しなければならない」と述べていた

大食物観」には広い視点から農業と食料を捉え、多方面かつ全面的に食料資源の開発を進めるという意味が含まれている

今年の「中央一号文件」では、“代替タンパク質”、“微生物発酵”、“培養肉”という明確な用語は使用されていないものの、「食用キノコ産業の向上・効率化」や「藻類食品の開発」が挙げられていることから、代替タンパク質を中心としたフードテックの含意のある内容となっている。

特に、「新たな食品資源」という言葉が新たに盛り込まれたことは、中国政府がバイオテクノロジーを活用した食品開発を重視していることがうかがえる。

「大食物観」が示す政策思想と代替タンパク戦略

こうした姿勢は、中国農業科学院の党委員会が3月20日に発表した文書でもさらに明確に示されている。

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