オーストリア・アメリカに拠点を持つ培養ペットフード企業BioCraft Pet Nutritionは、培養マウス細胞を99%使用したキャットフードの商用化に向けて、ルーマニアの高級B2BペットフードメーカーPrefera Petfoodと提携したと発表した。
EUでの商用販売に向けた体制が整う

Shannon Falconer博士(中央) 出典:BioCraft Pet Nutrition
BioCraftは先月、欧州連合(EU)での培養ペットフード販売に向けて、EU Feed Material Register(欧州飼料原料登録簿)への通知を完了したと発表した。
EUでは現在、動物飼料原料に対する市販前承認制度はなく、ペットフード用に動物由来原料を販売するには、原料の安全性を確保した上で、各国当局による動物副産物(Animal Byproducts:ABP)の使用登録、飼料事業者(Feed Business Operator)としての登録、そしてEU Feed Material Registerへの通知が必要となる。
BioCraftは、EUの規則(Regulation (EC) No 1831/2003)に基づいて安全性データを作成し、これら必要な3ステップをすべて完了した。同社はオーストリアにおいて、動物副産物の使用登録も完了している。これにより同社は、培養ペットフード原料の販売に向けた体制を正式に整えたことになる。
BioCraftはこの過程で、獣医師や食品安全などの専門家とともに、3年をかけて包括的な安全性データを作成。
第三者機関による検証も行われ、BioCraftの培養成分と現在ペットメーカーが使用する標準的な肉スラリーとの間に、非常に類似した栄養プロファイルがあることが示された。特に、従来のチキンスラリーよりもオメガ6、オメガ3脂肪酸比が優れていたという。
「本物の肉」志向のペットフード企業との提携が持つ意味

出典:BioCraft Pet Nutrition
今回の提携はこれに続くニュースとなる。
二社の提携による最初の製品「マウスムース」は、BioCraftの培養成分をほぼ使用したもので、低アレルギー性のタンパク源や、従来の肉より優れたオメガ6/オメガ3脂肪酸比を訴求ポイントにしている。
プレスリリースによると、今年5月にイタリア、ボローニャで開催される欧州最大のペット製品見本市ZoomarkのPrefera Petfoodのブースで、製品サンプルを発表する予定だ。
BioCraftは年末までに原料の最初の商用生産を開始する予定であり、マウスムース製品もそれに続いて市場投入される見込みとなる。
提携したPrefera Petfoodは2024年に設立されたB2Bに特化したペットフード会社。同社の特徴は、大豆などの代替タンパク質は用いず、本物の肉タンパク質の使用を重視している点にある。
培養ペットフードとペットフード会社の提携事例としては、今年2月に英Meatlyが初の販売を発表したが、Foovoは今回の提携とは意味合いが異なると考える。

出典:Meatly / Pets a Home
Meatlyが提携したのはビーガンドッグフード企業THE PACKとであり、植物性の製品群の中で培養成分を取り入れたものだった。
一方、BioCraftが提携したPrefera Petfoodは、本物の肉を原料供給している企業である。
二社の提携は、従来の肉原料を主成分としていたプレミアムペットフード市場に対し、培養肉で真正面から挑む事例といえる。その意味で、ビーガン層を主なターゲットとする企業との提携よりも一歩踏み込んだものと位置づけられ、培養肉が「本物の肉」の代替として、ペットフード業界から信頼を得始めていることを示す動きとも受け取れる。
特に、BioCraftがEUにおける販売体制を整えた直後の発表であることを踏まえると、今後の市場導入を目指す他社の培養ペットフード企業にとっても注目すべき事例となるだろう。
戦略的プレスリリース|誤解を避ける狙いも
さらに、BioCraftの3月25日付けのプレスリリースからは、ニュース以外に明確な狙いが感じられる。
このプレスリリースでは、EUでの販売に必要な手続きを一つずつ丁寧に記述し、安全性だけでなく、販売までのプロセスの透明化を意識している。
これは、2023年11月にチェコのBene Meat Technologiesが同様にFeed Material Registerへの通知を行った際、「販売認可を取得した」と誤解を招く発表をした経緯があったことによるものだろう。
BioCraftは今回、制度の枠組みや自社の取り組みを詳細に記載することで、誤解を避けつつ信頼性を高める戦略をとったといえる。
参考記事(プレスリリース)
BioCraft Receives Registration to Sell Cell-Cultured Pet Food Ingredients in Europe
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アイキャッチ画像の出典:BioCraft Pet Nutrition