代替プロテイン

培養脂肪の英Hoxton Farmsと三井化学、バイオものづくりの商業化に向け戦略的提携

 

イギリスの培養脂肪スタートアップHoxton Farms三井化学は今月19日、日本、アジアで次世代バイオものづくりを推進するため、戦略的提携を発表した

三井化学の先端素材と、Hoxton Farmsのモジュール型バイオリアクター技術を融合させ、食用の培養脂肪にとどまらず、化粧品・医薬品・持続可能な素材といった多分野において、バイオものづくり技術のスケールアップと商業化を加速する。

Hoxton Farmsと三井化学が提携

出典:Hoxton Farms

Hoxton Farmsは2020年に設立されたスタートアップで、豚の幹細胞を培養した豚脂肪「Hoxton Fat」を開発している。同素材は動物脂肪の代替として、ラーメンスープや、代替肉、ランチョンミートなど多様な用途に活用できる

今年4月には日本を含むアジア市場に培養脂肪を導入するため、住友商事と戦略的提携を発表した。東京で開催されたCultured Meat Symposium Japan(CMS Japan)にも登壇し、日本市場への関心を強めている。

培養脂肪の分野では、米Mission Barnsが今年3月、アメリカ食品医薬品局(FDA)から「質問なし」のレターを受領し、残すはアメリカ農務省(USDA)の承認のみとなるなど、グローバルで商業化に向けて前進している。

三井化学、グリーン化推進に向け、B&GM事業の分社化を検討

出典:Hoxton Farms

今回の三井化学との提携の中心は、Hoxton Farmsが培養脂肪の量産体制を構築するために独自に開発した低コストのモジュール型バイオリアクターとなる。

この技術に、三井化学の先端素材を組み合わせることで、培養脂肪など細胞培養製品の生産拡大に向けた共同事業の機会を模索する。三井化学は提携の一環として、Hoxton Farmsへの戦略的出資も行い、資本面でも連携を強化している。

両社は、Hoxton Fatを出発点としつつ、将来的には化粧品から細胞療法、バイオ由来化学品といった多領域への応用も視野に入れている。

三井化学は2025年5月、石油化学事業を主体とするベーシック&グリーン・マテリアルズ(B&GM)事業の分社化を検討し、他社との提携・統合・再編を進めることで “グリーン化・高機能化” を加速させる再構築策を発表した

今回のHoxton Farmsとの提携は、こうした戦略的再編のなかで初めて公表されたものであり、今後のグリーン化に向けた布石といえる。

住友商事、三井化学との提携により、Hoxton Farmsは日本企業との販路・製造面での基盤を固めつつある。すでに、国内で培養肉など細胞性食品の制度整備を進める細胞農業研究機構(JACA)とも連携しており、日本市場での足場を着実に築いている。

近年、日本国内では細胞培養製品への参入が活発化している。これまでの関心は培養肉や魚に集中していたが、住友商事や三井化学といった総合商社・素材メーカーの参画により、培養脂肪への注目も高まりをみせている。

Foovo作成

こうした動きは、日本における細胞農業の裾野の広がりを示すものといえる。

今年4月には日本培養食料学会設立され、夏には消費者庁の調査部会が細胞性食品のガイドライン中間案を発表する見通しとなる。

制度面での動きも含め、国内における細胞農業の実装が現実味を帯びてきた。今回の提携は、日本におけるバイオものづくりと細胞農業の発展を後押しする重要な一歩といえる。

 

※本記事は、プレスリリース(Hoxton Farms三井化学)をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像は各社ロゴをもとにFoovo作成

 

関連記事

  1. ドイツの培養肉企業MyriaMeat、自発的な収縮を示す培養豚肉…
  2. 中国企業HaoFoodのピーナッツを原料とする代替肉が上海レスト…
  3. Novameatが約7億円を調達、独自3Dプリント技術による代替…
  4. 培養肉企業モサミートが約66億円を調達、新たに食肉メーカーからの…
  5. Those Vegan Cowboysが精密発酵で作成されたチー…
  6. 日本初|植物肉グリーンカルチャーが植物魚に参入、7月より寿司屋で…
  7. 牛乳の全成分を含んだ培養ミルクを開発するカナダ企業Opalia
  8. Alt Farmは3Dプリンターで作った植物代替和牛で2023年…

おすすめ記事

培養フォアグラを開発する仏Gourmeyが約11億円のシード資金を調達、仏政府も支援

培養フォアグラを開発するフランス企業Gourmeyが1000万ドル(約11億円)…

代替マグロ開発中の米フードテックKuleana、年内に全米へ代替マグロ寿司の提供を目指す

サンフランシスコのフードテック企業Kuleanaは、クロマグロを使わない「リアルな寿司」を開発中だ。…

牛を使わずに乳製品を開発するDe Novo Dairy|南アフリカ初の精密発酵プレーヤー

南アフリカで代替タンパク質に取り組む企業が増える中、今年設立されたDe Novo…

培養肉未来創造コンソーシアム、大阪万博で培養肉の実物を展示|家庭で霜降り肉を作る「ミートメーカー」

「培養肉未来創造コンソーシアム」は、4月13日に開幕した大阪・関西万博で、3Dバ…

世界初、ニホンウナギ由来の不死化脂肪前駆細胞株を樹立──“脂の乗った”培養ウナギに挑む|都産技研・北里大が新成果

出典:Establishment and characterization of spontaneo…

タピオカティーロボットで未開拓市場を狙うBobacinoが約2.9億円を調達

完全に自動化されたタピオカティーロボットを開発する米スタートアップBobacin…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

最新記事

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(09/11 15:52時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(09/12 02:14時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(09/11 05:54時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(09/11 21:52時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(09/11 13:50時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(09/12 01:08時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP