麹ラボによる麹菌体を用いたマイコプロテイン試食会が6月22日、都内の玄米自然食レストラン「元氣亭」で開催された。
本試食会では、5品の料理を通じて、発酵タンパク質の多様な可能性が提示された。Foovoも参加し、マイコプロテインを使用した料理を試食した。
麹菌体は“肉”にも“ソース”にも──試食で見えた応用力

試験用麹肉 Foovo(佐藤)撮影
提供された料理の中で最も印象に残ったのは、麹菌体を使用した「試験用麹肉」だ(上記写真)。味付けをしていないにもかかわらず、素材自体にうま味が感じられ、食感は程よい繊維感がある。
料理の中では青椒肉絲が特に気に入った(下記写真)。噛んだ時にわずかな弾力と歯ごたえがあり、本物の肉の食感にやや及ばないものの、十分に美味しく感じられた。

青椒肉絲 Foovo(佐藤)撮影

青椒肉絲 Foovo(佐藤)撮影
一方、サラダでは、同じ麹菌体を使用しているとは思えないほど、まったく異なる食感が感じられた。こちらは、麹菌体をシーチキンの代替として使用した大根サラダ(下記写真)。

大根サラダ Foovo(佐藤)撮影
同じ菌体なのに、しっかりとした歯ごたえがあり、薄切り肉に近い。代替シーチキンとしての用途にとどまらず、薄切り肉や、ホルモン系部位の代替肉として応用できる可能性を感じた。
青椒肉絲と同じ菌体から作られたとは思えないほど、まったくの別物に仕上がっていた。
市場に出す上で、コスト面でも実現性が高いと感じたのがハンバーグだ(下記写真)。

Foovo(佐藤)撮影
麹菌体100gに対し、ひき肉200gを混ぜたもの。麹菌体のみの製品に比べ、本物の肉を含む分、味や食感に違和感がない。一般消費者への導入段階として、現実的なアプローチだと感じた。
興味深かったのは、酒粕、焼酎粕と異なる発酵副産物を用いた麹菌体の食べ比べができたことだ。焼酎粕を使用した麹肉の方が、若干、噛み応えが強めだった。他の参加者からも同じ感想が聞かれた。

Foovo(佐藤)撮影 手前が酒粕使用のハンバーグ、中央が焼酎粕使用のハンバーグ
これらの料理の“もと”は、麹菌を培養したマイコプロテイン。培養し、バイオマスとして収穫後、冷凍された状態が下記の写真。
割ってもらうと、和紙を破った時のような繊維感があるのがわかるだろうか。

Foovo(佐藤)撮影
実は麹菌体、水によくほぐれるのだという。
水に溶かした状態で触ってみると、ティッシュを水に溶かしたような感覚。

Foovo(佐藤)撮影
この性質を生かした1品が、麹菌体のバーニャカウダーだ(下記写真)。
豆乳、味噌、塩麹、にんにくなどに麹菌体を加えたもので、ざらざらした食感はなく、なめらかで、麹菌体が材料に溶け込んでいることがわかる。

Foovo(佐藤)撮影
この溶け具合ならば、タンパク質含有量の高いスムージーや、タンパク質が多く取れるヨーグルト、アイスクリームなどさまざまな製品に応用できると感じた。
麹菌で地球を救う──麹ラボが目指すもの

麹ラボの萩原大祐代表 Foovo(佐藤)撮影
「麹菌で地球を救う」というスローガンを掲げる麹ラボは、微生物の力を活かして、従来の代替タンパク質を超えた、美味しくて、資源循環を可能にする「革新的な代替肉」の提供を目指している。
その出発点は、筑波大学で行われていた微生物研究にあった。萩原大祐代表は、大学での研究活動を通じて、培養した麹菌体を“代替肉”という切り口で活用する着想に至った。食品副産物である酒粕や焼酎粕を培地として麹菌を増やすことで、サステナブルなタンパク源としての可能性を見出し、2024年12月に株式会社麹ラボを設立した。
麹ラボが開発している麹菌体は、従来の代替タンパクと比較して、独自のうま味と柔らかな食感、さらには水によくほぐれるというユニークな物性を兼ね備えている。タンパク質だけでなく、食物繊維も含まれており、ミンチ状の代替肉やソース状の調味料、繊維感を生かした薄切り肉など、幅広い食品形態への応用が期待される。
今回の試食会では、そうした用途の多様性が実際の料理を通じて示された。
当初は酒粕を用いた培養から開始したが、JSTの産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)を通じて三和酒類と共同研究を開始したことで、焼酎粕のアップサイクルにも取り組んでいる。

Foovo(佐藤)撮影
萩原氏は「酒粕の種類によっても味は変わるので、培養工程で美味しくできる可能性を引き出し、自社技術として確立したいです」と語る。
現在も筑波大学と連携しながら共同研究を継続しており、昨年のAcademistを通じたクラウドファンディングでは約170万円を集め、今回の試食会開催につながった。
技術面における現時点での課題は、味よりもむしろ食感の再現にあるという。
試作段階の現在は培養に注力しながら、加工は限定的な方法に絞って実施しているが、今後は企業やレストランとの連携により、加工技術の最適化にも取り組んでいく方針だ。
また、今後の展開に向けた課題として、「いかにコストを下げて量産するか」「いかに美味しくし、幅広い層に早急に受け入れてもらえるか」の2点をあげる。前者は、技術のスケールアップにより対応可能な一方で、需要の見極めや市場開拓といった技術以外の要素も大きく関わる。後者に関しては、外部との連携を通じて改良を重ねていく考えだ。
麹ラボの事業には“環境負荷の低減”という視点も根底にあるが、単にCO₂削減を目指すのではなく、食品副産物を再利用することで、未利用資源を循環させ、総合的な資源効率の向上を目指している。とくに、従来は廃棄や飼料用途にとどまっていた酒粕・焼酎粕といった発酵副産物を麹菌の培地に利用することで、未利用資源から新たな価値創出が可能になる。
麹菌の培養後に残る培養液にも活用の可能性がある。現時点は廃液として処理しているが、試食会の参加者からは「だしとして利用できるのではないか」との提案もあり、萩原氏も「廃液を活用することで、さらなる資源循環が実現できますので、今後、食品メーカーなどと連携していきたいと考えています」と述べた。
将来的には、菌体のアミノ酸組成やビタミン含量、機能性成分の強化にも着手していく。萩原氏は、アミノ酸スコアは基本的に100で、ビタミンやGABAを増やすことも視野にいれていると述べた。
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アイキャッチ画像はFoovo(佐藤)撮影