アップサイクル

スイスのPlanetary、菌糸体スタートアップLibre Foodsの中核資産を買収──マイコプロテイン市場での存在感を強化

 

スイスのフードテック企業Planetaryが、スペインの菌糸体スタートアップLibre Foodsの中核資産を買収した

Planetaryによると、これは同社のBioBlocksプラットフォームの継続的構築・強化を目指す戦略的買収となり、「Libreのブランド、製品、知的財産から、短期間で業務面および商業面のシナジーを引き出したい」と述べている

菌糸体を含むバイオマス発酵分野では2025年以降、事業終了したBolder Foods、銀行による資金回収で窮地に追い込まれたMeati、破産申請したArkeonの事例など、再編・淘汰が確認されており、製造能力と資本力を備えたプレーヤーへの集約が進みつつある。

CDMOとマイコプロテインの2軸モデルを展開するPlanetary

出典:Planetary

2021年創業のPlanetaryは、下流から上流工程を最適化するBioBlocksプラットフォームによる精密発酵向けCDMO事業と、B2B原料としてのマイコプロテイン開発という2つの事業モデルを展開している。

同社は2022年4月に20万~50万リットルの製造施設の建設計画を発表(2024年時点で5万リットル規模)。

当初は精密発酵・バイオマス発酵向けのCDMO事業を目指して開始されたが、まずマイコプロテインで市場をリードする地位を確立してから、精密発酵食品の生産を促進させていきたい考えをFoodhackのインタビューで述べている

昨年10月には、欧州大手の甜菜共同組合の1つであるCosunから300万スイスフラン(約5億5,000万円)の出資を受け、同社のてん菜や関連する副産物のマイコプロテインへの変換を目指している。PlanetaryはスイスのAarberg最初のマイコプロテイン製造施設設置しており、今回のLibre Foodsの買収により、欧州でのマイコプロテインプレーヤーとしての存在感を高める狙いがあると考えられる。

また同社は、発酵プロセスをモニタリング・制御する高度なセンシングソリューションとAIの導入に向けてコニカミノルタと昨年提携した

Green queen報道によると、買収対象はLibre Foodsの主力ブランド、商業契約、知的財産が含まれる。買収後の業務移行のためにCEOのAlan Iván Ramos氏を含め、一部チームが一時的に移るが、正式にPlanetaryの従業員になるわけではないという。

スペイン全土で代替ベーコンを展開したLibre Foods

出典:Libre Foods

買収されたLibre Foodsはどのような企業なのか。

Libre Foodsは2021年に設立された企業で、2022年にキノコ由来ベーコンを発表。翌年にはスペインの30箇所以上に展開し、Foovoの調査では2024年5月時点では70以上のレストランに導入されるなど、順調に販路を拡大していた。

2023年には菌糸体由来の代替鶏胸肉を発表し、2024年の上市を目指していたが、発売は確認されておらず、上市前に今回の買収取引が成立したものと思われる。

買収対象には知的財産も含まれるため、Libre Foodsが特許出願している液中発酵による菌糸体由来肉に関する技術EP4530341A1)も移管されることとなる。また、2024年にオレオゲル技術を用いた動物脂肪代替の欧州特許(EP4338595A1)を公開(その後撤回)しており、Planetaryがこの技術を改良し、再出願する動きがみられる可能性もある。

Ramos氏Green queenのインタビューで、「製造へのアクセスが商業的成功に重要」だと述べている通り、菌糸体を活用した代替タンパク市場は、拡大への期待と商業化の壁が交錯する段階にあり、スケールアップ能力の有無が企業の明暗を分け始めている。

 

※本記事は、Green queenの記事をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Planetary

 

関連記事

  1. とうもろこしから作られる砂糖|植物繊維のアップサイクルで砂糖を開…
  2. Onego Bio、精密発酵卵白タンパク質で米国GRAS認証を取…
  3. 「食品発酵業界のボトルネック解消」を目指すplanetaryが約…
  4. カナダのThe Better ButchersとGenuine …
  5. インポッシブル・フーズの大豆レグヘモグロビンをEFSAが安全と判…
  6. オランダの大手スーパー売り場で見る代替乳製品の今|現地レポート
  7. Change FoodsがUAEへの精密発酵タンパク質の工場計画…
  8. スペインNovameatが3Dプリンター製培養肉の試作品を発表

おすすめ記事

Numilkが家庭用植物ミルクメーカーを発表、クラファンの累計支援額は目標の2倍以上に

感染が拡大する新型コロナウイルスの影響を受け、トッピングやカスタマイズが自由な次…

Wilk、細胞培養乳脂肪を使った「世界初」のヨーグルトを開発するプロジェクトを始動

細胞培養による代替母乳・ミルクを開発するイスラエルのWilk(旧称Bio Mil…

培養牛肉を開発する米SCiFi Foodsが資金調達難で事業を停止

培養牛肉を開発する米SCiFi Foodsが今月、資金調達難から事業を停止したこ…

イート・ジャストがカタールへの培養肉工場の建設でQatar Free Zones Authorityと提携

シンガポールに続き、次に培養肉の販売を承認する国がカタールとなる可能性がでてきた…

Those Vegan Cowboysが精密発酵で作成されたチーズを発表

オランダの植物肉ブランドThe Vegetarian Butcherからスピンオ…

イスラエルのEver After Foodsがビューラーと提携、培養肉の大量生産を加速

イスラエルの培養肉企業Ever After Foodsは今月、培養肉の大量生産に…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

最新記事

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(10/22 16:08時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(10/22 02:38時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(10/22 06:16時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(10/22 22:09時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(10/22 14:08時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(10/22 01:26時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP