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単細胞タンパク質のCalysta、英米の研究開発ラボを閉鎖──中国工場を基盤に次の工場建設へ

出典:Calysta

天然ガスに含まれるメタンなどの炭素源を微生物に与えて単細胞タンパク質「FeedKind」を生産するガス発酵スタートアップのCalystaが、イギリス・レッドカーにある研究開発設備を売却に出したことが判明した。

イギリスの資産売却会社BPI Asset Advisoryは今月14日、Calysta の子会社となるCalysta UKの清算人より、同社の研究開発ラボの全設備を売却するよう指示を受けたと発表した

商用生産の確立で開発から製造へシフト

出典:Calysta

売却対象は研究開発ラボにある全設備で、発酵・細胞農業などの分野に関わる研究者や企業にとって「希少な機会」と位置づけられている。

オートクレーブやLC/MS分析機器、インキュベーターなどが含まれ、競売は11月20日に終了した。この告知は、Calystaのイギリス子会社が清算手続きに入ったこと、そして研究拠点としての機能を停止し資産処分を進めていることを示すものである。

AgFunderの報道によると、アメリカの研究開発ラボも閉鎖された。英米の施設を閉鎖した背景には、中国で商用規模のプロセスが確立したことがあるとしている。

中国・重慶ではAdisseoとの合弁会社Calysseoによる年産2万トン規模の商用工場が稼働しており、この生産拠点を軸に、サウジアラビアやUAEなどの中東などでの工場建設の可能性を視野にいれているという

サケの飼料用途では2023年にアメリカで認可を取得しているが、現在はペットフードに商機を見出しており、中国の工場の生産量の7割がペットフード向けに割り当てられるという。昨年8月には、中国の工場からポーランドに向けて、「FeedKind Pet」の最初の大規模な出荷実施された

Calystaは2022年の時点より、重慶の5倍規模となるサウジアラビアでの工場建設計画を発表していた。当時の発表では、10万トン規模のバイオリアクターを、2026年までに稼働させる構想だった。

共同創業者兼CEO(最高経営者)のAlan Shaw博士は、現在の焦点は中国の工場を活用しつつ、世界各地に工場を建設することだとAgFunderのインタビューで述べている

今回の拠点閉鎖は、商用規模に移行した今、かねてより計画していた次のスケールアップに向けて動き出したものと考えられる。これは単なる縮小ではなく、商用生産が動き始めたことで、研究拠点の役割をいったん整理し、製造や供給に力を移していく段階に入ったということだろう。

撤退する事例がある中、Calystaは製造フェーズへ移行

出典:Marsapet

Calystaは2012年設立のガス発酵スタートアップで、メタンなどの炭素源を原料として非GMOのタンパク質「FeedKind」を製造してきた。2024年5月に「FeedKind Pet」が犬用おやつに採用され、今年3月にはドイツのペットフードメーカーMarsapetのドッグフード製品に採用された

ガス発酵分野では今年7月、CO2由来タンパク質を開発してきた米Novonutrientsが事業終了を発表し、資産の売却を開始した。元CEOのDavid Tze氏は「技術は機能しており、私たちはパイロット段階でそれを実証しましたが、課題となったのは、変化する投資環境の中で求められる資本集約度でした」と説明した

6月には古細菌と二酸化炭素を活用して代替タンパク質を開発するオーストリアのArkeonも破産を申請した

またガス発酵とは別領域では、細胞培養用の試薬を開発する英CellRevが資金調達難を理由に事業を終了した。さらにスウェーデンの植物性チーズ企業Stockeld Dreameryが先月、市場減速・需要の弱さ・資金調達を正当化する勢いを示せないことを理由に事業終了を決定している

これらの事例に概ね共通するのは、「技術開発の手応えがあっても、次のフェーズ移行に必要な運転資金の確保が難しい」という点だ。

一方、Calystaは中国での商用生産を先に確立したことで、英米の研究開発拠点を維持する必要性が薄れたとみられる。つまり今回の拠点閉鎖は、資金難による閉鎖ではなく、固定費を抑えつつ製造と販売に集中するための戦略的なコスト最適化と位置付けられる。

 

※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

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アイキャッチ画像の出典:Calysta

 

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