このニュースのポイント
●植物性代替肉に取り組むイスラエル企業SavorEatがテルアビブ証券取引所でIPO
●1300万ドルを資金調達
●3Dプリンターで6分で調理済みのバーガー用パテが完成する
●大手ハンバーガーチェーンで2021年夏までに試験販売を開始予定
●米国を中心に海外展開のためのパートナーを探している
イスラエルの代替肉スタートアップSavorEatがテルアビブ証券取引所(TASE)でIPO(新規株式公開)を実施、4260万シュケル(約13億5千万円)を資金調達した。
TASEにおいて、3Dプリンターを使う代替肉では2社目に上場した企業となる。
1社目は同じく3Dプリンターによる培養肉を開発するMeat Tech。しかし、植物肉部門では、SavorEatが上場1社目だ。
同社は調達した資金を、開発のスピードアップ、試験運用の追加、市販化に使うとしている。
現在、海外展開のためのパートナー、特に米国での協業先を探しており、今回の上場がよい追い風となりそうだ。
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6分で完成する「調理済み」の代替肉パテ
SavorEatの代替肉は、3Dプリントが完了したときに調理済みであるという特徴がある。
しかも、わずか6分で代替肉パテが完成する。
製造プロセスは、1層プリントしたら、1層を焼き上げる。次いで1層をプリントし、1層を調理する。このくり返しで、調理済みの代替肉ができあがる。
ヘブライ大学農学部のOded Shoseyov教授とIdo Braslevsky教授が開発した技術を使用している。2人はSavorEatの創業メンバーでもある。
3Dプリンターから押し出される食用インクには、脂肪、香料、植物由来のタンパク質、水に加え、前述の教授らが開発したセルロースナノファイバーが含まれる。
このセルロースは植物細胞由来で、植物性タンパク質や脂肪と混合したときに材料を結合させる役割を担い、肉のような食感を作り出す。
このインクを搭載したカートリッジを装置に取り付け、3Dプリントして肉を作る仕組みだ。
ユーザーはアプリを通じてバーガーの焼き加減や脂肪・タンパク質の量などをカスタマイズする。注文が完了すると、装置がデータを受信し、「調理」がスタートする。
わずか6分でオリジナルなバーガーが完成する。
同社は3Dプリンティング技術を活用した食品生産プロセスについて、米国、ヨーロッパ、オーストラリアで特許を出願している。
他社にはないSavorEatの強み
SavorEatがイスラエル・海外いずれの代替肉企業と一線を画す点は、在庫と包装が必要ないことだろう。
SavorEatの代替肉は冷蔵保存する必要がない。顧客がすぐに食べることを想定しているからだ。
さらに、食用インクは室温で数ヵ月保存できる。SavorEatのハンバーガーは、必要な時に、必要な場所で作られるので、ストックする必要がないのだ。
また、肉ができるまで人間が介在せず、すべての調理過程が自動化されている。
在庫・包装・人間を不要とする同社のソリューションは、環境に優しく、持続可能であるほか、在庫によるコスト、エネルギー、温室効果ガスの削減にもつながる。
2021年夏までに人気ハンバーガー店で試験運用を開始
SavorEatは2018年にRacheli Vizman、Oded Shoseyov、Ido Braslavskyによって設立されたイスラエル企業。
Vizmanによると、同社のソリューションがあれば、企業は顧客の好みに応じて、いろいろな口当たりやデザインの肉を作ることができる。しかも、生産する過程でこの肉は調理される。
SavorEatの代替肉の特徴は何と言っても、大衆に一律に提供される「マス」をターゲットとしたものではなく、食事制限、ライフスタイル、疾患による食事条件など、ひとりひとりの事情に合わせて個別化された料理を可能とすることだろう。
今年1月、SavorEatはイスラエルの人気ハンバーガーチェーンBurgus Burger Bar(BBB)との提携を発表した。
2021年の夏までに、BBBの店舗で3Dプリンターと代替肉の試験運用が開始される。BBBの店舗で既存のヴィーガン商品と同等価格で提供されるという。
オリジナルハンバーガーの注文の流れ
BBBでの注文の仕方はこうだ。
客はSavorEatのアプリからバーガーを選び、バーガーのサイズ、タンパク質・脂肪の量、焼き加減などを自由にカスタマイズする。
材料を含んだカートリッジが装置にセットされ、ウェイターがボタンを押す。6分でバーガーが調理され、客に提供される。
こちらのサイトからこのアプリを試せるので、気になる人は試してみよう。
今後の展開と戦略
SavorEatは、3Dプリンターと材料いずれもレストランに販売する予定だ。こうすれば、レストランが自分たちでバーガーや、いずれはほかの製品も作れるようになる。
2021年の夏までに、BBBの店舗で3Dプリンターと代替肉を試験運用が開始される予定だが、BBBのほかに他社とのパートナシップも交渉中で、イスラエル国内だけでなく、海外での協業先も探しているところだ。
現在は、1台の3Dプリンターで同時に2つのパテを作れる。今後も製造技術も改良していく考えだが、BBBのフィードバックを受けてから、最適な生産能力を見極めたいとVizmanは述べている。
今後は、これまでに開発した植物肉ハンバーガーのほかに、チキンブレスト、ステーキ、シャワルマ(中東の包んだ肉料理)、ケバブ、ひき肉、水産物も開発予定だという。
同社のバーガーは、グルテンを含まず、ヴィーガンでユダヤ教徒が食べられる「コーシャ食品」となっている。
イスラエルで注目の代替肉プレーヤー
SavorEatのほかにも、イスラエル発の代替肉プレーヤーはいる。
代替肉プレーヤーとして同じくイスラエルで上場しているMeat-Techは、BtoBに注力し、他社が培養肉生産者になるためのサポートを理念としている。自社ブランドの構築ではなく、3Dプリンティングを組み合わせた培養肉製造プロセスで他社とライセンス契約を結び、他社が培養肉を作れるようサポートするのが狙いだ。
Meat-Techは先日、厚さ10mmの牛肉脂肪構造の作製に成功した。
Future Meatも培養肉の開発に取り組むが、幹細胞ではなく、結合組織を構成する線維芽細胞を使うことで、コストダウンを図る。同社は2021年早期に量産化する予定でおり、FDA承認についても自信を見せている。
世界初となる培養肉レストランをオープンしたSuper Meatは、鶏肉に特化した培養肉を開発している。
Redefine Meatは3Dプリンターで植物肉を開発している。年内に欧州の一部レストランで市場テストするほか、2021年には販売パートナーに産業用バイオ3Dプリンターを広く販売したいと考えている。
アレフ・ファームズ(Aleph Farms)は宇宙で牛の細胞から筋肉組織を3Dプリントすることに成功し、厳しい環境でも肉を生産できる可能性を示した。
同社は最近の報道で、植物ベースの代替肉よりも、実験室で作られた培養肉の方が、早くに本物の肉と同等価格に達するだろうと述べている。
となると、SavorEatが夏までに予定しているハンバーガーショップでの試験運用の行方が気になるところだ。
培養肉と植物肉、どちらが先に価格面で市民権を得るだろうか?
参考記事
Burger-printing SavorEat holds IPO, becomes first plant-based meat firm on TASE
With A Robot Chef And Vegan Burgers, Israel’s SavorEat Goes Public
SavorEat and Meat-Tech 3D advance Israeli 3D printed food sector
アイキャッチ画像の出典:SavorEat