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米BIOMILQ、創業者の元夫との知財紛争で破産申請

Leila Strickland博士(出典:BIOMILQ)

母乳に含まれる生理活性物質を開発するアメリカのBIOMILQが破産申請したことが報じられた。

米BIOMILQ、創業者の元夫との知財紛争で破産申請

Michelle Egger氏(左)Leila Strickland博士(右) 出典:Biomilq

AgFunderの報道によると、BIOMILQの破産申請の背景には、共同創業者のLeila Strickland博士と、その元夫Shayne Guiliano氏との間で係争中の知的財産紛争がある。

2020年にStrickland博士Michelle Egger氏により設立されたBIOMILQは、乳腺上皮細胞を培養してカゼインとラクトースを産生した成果により、早期にビル・ゲイツ氏の投資ファンドから出資を受けた。2021年6月には、BIOMILQの製品に、ヒトの母乳に含まれる多量栄養素プロファイルが含まれることが確認された

2021年10月にはシリーズAラウンドで2100万ドル(当時約24億円)を調達し、調達総額は2450万ドル(約38億円)なった

当時、4年以内に培養母乳成分の上市を目指してることが報じられたが、AgFunderの報道によると、その後、母乳に含まれるヒトミルクオリゴ糖(HMO)、オステオポンチン、エクソソームなどの生理活性物質の生産にシフトしたという。

BIOMILQとGuiliano氏との間で係争が始まったのは2022年初頭。

BIOMILQは、Guiliano氏Strickland博士の自宅に無断で侵入し、ノートを撮影し、企業秘密を盗んだと主張した。これに対しGuiliano氏は、BIOMILQの特許に自身が共同発明者として記載されるべきだと主張した。

この根拠として、2013年から2020年にかけて両氏が108Labsで働いていた時、共同開発したことに言及している。

また、BIOMILQの知的財産は108Labsに帰属すべきだったと訴え、離婚後にBIOMILQで開発された知財に対する婚姻上の権利も主張し、これが投資家や買収希望者を遠ざける要因となった。

Strickland博士によれば、二人の離婚は2023年に成立したが、BIOMILQの知財を巡る係争により婚姻財産の分割は未解決のままである。Guiliano氏は、BIOMILQの技術は自身と108Labsの技術を不正流用したものであり、これがなければ企業として成立し得なかったと訴えた。

これに対しBIOMILQは、Guiliano氏の要求について、「Guiliano氏が貢献または考案したと主張するBIOMILQの特許のクレーム要素を、十分な具体性をもって特定できていない」と反論した。Guiliano氏の訴訟の一部は却下・撤回されたが、係争は続き、BIOMILQの資金調達と買収を妨げた。

2024年の資金調達は失敗し、買収交渉も難航したため、昨年12月の調停が決裂した後、BIOMILQは最終的に閉鎖を決断した。

BIOMILQの知的財産紛争の特殊性

出典:Motif FoodWorks

知的財産を巡る紛争の末に、企業が閉鎖にいたった事例では、昨年のMotif Foodworksがあげられる。

Motif Foodworksは植物肉を向上させるヘムを精密発酵で開発したが、同じく精密発酵ヘムを開発したインポッシブル・フーズから同社のヘム関連特許を侵害しているとして2022年3月に訴訟を提起された。昨年9月に各社が費用負担することで訴訟は終結したものの、その数日後、Motif Foodworksの閉鎖が報じられた

閉鎖に関して公式の発表はなされていないが、スタートアップ企業同士の知的財産をめぐる訴訟は、資金調達を難しくさせるだけでなく結果的に企業の存続を危うくする要因になりうることを示す事例となった。

菌糸体由来のマイコプロテインを展開するMeati FoodsThe Better Meat Co.との間でも訴訟が展開された。昨年6月に終結したものの、係争中の訴訟が解決しなければ「廃業するか休眠状態になる」とThe Better Meat Co.は述べていた。

BIOMILQの事例が、他の2つの事例と比べてより複雑になった要因の一つに、Strickland博士Guiliano氏元夫婦であり、さらに両氏がかつて同じ職場108Labs)で共同研究を行っていたことが考えられる。

両氏が108Labsで働いていたときに開発された知的財産の帰属を巡る争いが、離婚後にBIOMILQで開発された知財の権利を巡る争いへと発展し、さらには婚姻財産の分割が未解決のままとなっている。その結果、投資家や買収希望者を遠ざける要因となった。

Strickland博士は、「スタートアップの高い失敗率に対して、イノベーション業界全体が現状を受け入れていることが、変革的な技術に取り組む資本集約型のアーリーステージ企業を訴訟制度の脆弱性にさらしています。現在の制度は、思考やアイデアを巡る複雑な紛争に適切に対処できていません」とコメントしている

同氏は自身の体験をもとに、ライフサイエンス分野で革新的なイノベーションに取り組むスタートアップが直面する構造的な課題を解決するための場として、ThroughLine Bioを今月立ち上げた。

 

参考記事

Exclusive: BIOMILQ files for bankruptcy amid IP dispute that made it ‘uninvestable and unacquirable’

 

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アイキャッチ画像の出典:BIOMILQ

 

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