このニュースのポイント
●フィンランドSolar Foodsは約5億4千万円を調達
●空気と電気からつくるタンパク質Solein
●土地と水の使用・温室効果ガスの排出量が極めて少ないタンパク質
●新しい生産工場を2022年までに稼働予定
●今後のタスクは実証プラントの建設
●まずは自社ブランドで市場参入へ
フィンランドのスタートアップ企業Solar Foods(ソーラーフーズ)が430万ユーロ(約5億4千万円)を調達した。
これは政府組織Business Finlandによる助成金で、今年9月に実施されたシリーズAラウンドに続くもの。同社がこれまでに調達した資金は2480万ユーロ(約31億2千万円)となる。
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空気と電気で作られるタンパク質Solein(ソレイン)
Solar Foodsは2017年に設立された代替タンパク質に取り組むフィンランドのスタートアップ。
同社が開発したタンパク質の主な材料は二酸化炭素と電気だ。
大気中の二酸化炭素・水、電気、バクテリアを使って単細胞タンパク質(single-cell protein)を生成させる。
バクテリアが二酸化炭素と、水の電気分解によって生成された水素を取り込むと、バクテリアは成長し、単細胞タンパク質が生成される。
このように、空気を原料にして作られるタンパク質がSolein(ソレイン)だ。
二酸化炭素は地球に無尽蔵に存在するため、原料がなくなることはない。
農業のように灌漑、殺虫剤、肥料、土地を使用とせず、天候にも左右されないため、環境に優しく、サステイナブルなタンパク質とされる。季節的な価格変動や供給変動がないことも強みの1つだ。
Soleinを作るのに消費する水の量は牛肉のわずか1/500、植物の1/100となる。
Solar Foodsによると、Soleinの生産プロセスは苛酷な環境下にも耐えることができ、砂漠、北極、おそらく宇宙でも可能だという。
同社はこれまでにSoleinを使った20種類の食品を開発している。
この中には、ミートボールやバーガー用パテなどの代替肉、ヨーグルトやチーズなどの代替乳製品が含まれる。
サステイナブルなだけではない、栄養も豊富なタンパク質
Soleinは二酸化炭素を原料とするため、気候変動を軽減させることができ、地球にとってサステイナブルだ。
しかし、タンパク質としての栄養価はどうだろうか?
Soleinのタンパク質は60-75%と、タンパク質を豊富に含んでいる。炭水化物は10-20%、脂肪は4-10%、ミネラルは4-10%となっている。
タンパク質含有量が最も高い食品である肉類で見てみると、牛肉のタンパク質は17%、豚肉は14%と、Soleinのタンパク質が非常に多いことがわかる。
アミノ酸レベルでも、大豆、牛肉、マイコプロテインに匹敵するのが下記グラフからわかる。
Solar Foodsのロードマップ
Solar Foodsは今回の資金で、商品化・新しい生産工場の建設を進めるとしている。
2022年までに新しい生産工場を稼働する予定でいる。
同社は2022年までに消費者向けの商品開発を計画している。最初の商品は食品に加える添加物としてではなく、Soleinのブランドを全面に出すような最終食品になるとされる。
CEO・共同創業者のPasi Vainikkaは、インポッシブル・フーズやビヨンドミートなどの代替肉プレーヤーが将来、タンパク質をさらに必要とした場合に支援する可能性についても過去に語っている。
BtoC以外にも、BtoBの販路を想定しており、ライセンス契約によりタンパク質の使用権利を提供する可能性もあるという。
最終的に、タンパク質の生産プロセスから農業システムへの依存を完全に取り除くことを目指している。
商品を市場に投入する際には、まず小規模に開始する予定だという。
今回の調達を受けて、同社がこれから取り組むべきこととしてVainikkaは次の2点をあげる。
●1つは、市場投入できるレベルにSoleinの開発を完了させること。
●もう1つは、実証プラントを建設すること。
次の目標は、実証プラント建設のための資金を調達することだという。
実証プラントの基本設計は完了しており、場所もいくつか選定済みで、今後数週間のうちに実証プラントの場所を決める予定でいる。基本設計を実行したら、実証プラントの許認可手続きに入る。
同社のロードマップによると、2024年までに本格生産を実現し、年間400万個分の食事を提供予定だ。
圧倒的な持続可能性を秘める空気由来のタンパク質
空気からタンパク質を作る領域はまだニッチだが、Solar Foodsの商品が市販化されたら、状況は一変するだろう。
同じく空気からタンパク質を作るには、米国発のAir Proteinがいる。
2019年に同社は二酸化炭素から作ったタンパク質を使った代替肉を発表した。現在は、小売・レストラン向けの商品を開発している。
イギリスを拠点とするDeep Branchは、二酸化炭素から作ったタンパク質で動物飼料を生産している。
同じく動物飼料用のタンパク質を販売するNovoNutrientsは、今後は代替肉や代替魚に拡大させたいと考えている。
現在、空気からタンパク質を作る主要なプレーヤーは、Air ProteinとSolar Foodsだ。
2社はいずれも、自社ブランドで市場参入を考えている。この戦略が功を奏するかどうかは、味、ブランド力、価格による。
Air ProteinとSolar Foodsが量産を実現し、価格面でも手の届くものになれば、タンパク質を空気で作る流れが主流になるだろう。
空気から作られるタンパク質の最大の特徴は、持続可能性だ。土地・水の使用量を減らし、温室効果ガスの排出量も減らせる。
生産に必要なものはごくわずか、それでいて作り出せるタンパク質に限りはない。
この次世代タンパク質が主役になれば、わたしたちの食料生産システムはさらに持続可能なものへとシフトするだろう。
参考記事
Solar Foods’ alternative protein from air and electricity nets another €4.3m funding
The Spoon Plus Insider Guide to Air Protein
Solar Foods Gets US$5.2M Grant From Business Finland To Commercialise Air Protein
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アイキャッチ画像の出典:Solar Foods