イスラエルのRedefine MeatがシリーズAで2900万ドル(約30億円)を調達した。
今回の調達でRedefine Meatの調達総額は3500万ドル(約37億円)になる。
Redefine Meatは今年中に3Dプリンターとカートリッジを世界中の食肉販売業者に販売し、業者が肉をプリントして販売できるようにしたいと考えている。
3Dプリンターで「次世代ステーキ」を作るRedefine Meat
最近、イスラエル発のフードテックニュースが続いている。
先日にはアレフ・ファームズがバイオ3Dプリンターを使って生きた細胞を「フードインク」としてプリントし、リブロース肉を生産したと発表した。
Redefine Meatはアレフ・ファームズと異なり、使う「フードインク」はすべて植物ベースで、細胞ではない。
一般的な家庭用3Dプリンターは、材料(インク)を熱で溶かして、ノズルから押し出して積層させることで、立体構造を作り出す。
下図のように、細いフィラメント(樹脂のこと)がエクストルーダーに送られると、フィラメントが溶け、ノズルから押し出されて積層していく。熱でフィラメントを溶かすこの方式は、熱溶解積層法やFDMと呼ばれる。
要するにソフトクリームのイメージだ。
家庭用3Dプリンターでは一般にノズルは1つだけだが、Redefine Meatの3Dプリンターは3つのノズルを有する。
「フードインク」はAlt-Muscle、Alt-Fat、Alt-Bloodという異なる材料から構成され、複数のノズルを備える3Dプリンターが同時に出力することで、味だけでなく、食感もそっくりな代替ステーキを作り出す。
Redefine Meatの3Dプリンターは、1時間にステーキ肉を50個生産する性能を有する。
昨年の報道では1時間に13ポンド(約6kg)の生産だったが、今年には次世代型3Dプリンターをリリースし、1時間あたりの生産能力を44ポンド(約20kg)まで高めたいとしていた。
Redefine Meatがフードインクに使う原料の詳細は明らかにされていないが、businessinsiderの報道によると、大豆、えんどう豆、ココナッツオイル、ひまわり油が含まれている。
Redefine Meatとアレフ・ファームズに見られるある共通点
ここで、Redefine Meatとアレフ・ファームズのある共通点に注目したい。
2社はいずれもイスラエル企業で、3Dプリンターで食にイノベーションを起こそうとしているが、もう1つ共通点がある。
Redefine Meatの複数材料を同時に出力する3Dプリンティング技術を統括するのはストラタシス出身のDaniel Dikovsky氏。
Dikovsky氏は2019年にRedefine Meatに入社。
それまでに世界的な3Dプリンター大手のストラトス社で11年にわたって複数材料のマルチマテリアル3Dプリント、医療用臓器モデルの3Dプリント開発を主導してきた経験を持つ。
特に注目したいのが、Dikovsky氏がテクニオン・イスラエル工科大学で、組織工学における3D足場の開発に焦点をあてた研究を行っていたことだ。
テクニオンといえば、アレフ・ファームズと共同でバイオ3Dプリントによる培養リブロース肉を開発した大学であり、テクニオンのバイオ3Dプリンターセンター長であるLevenberg氏はアレフファームズの共同創業者であり、研究の中核にいる人物。
Dikovsky氏、Levenberg氏の3Dプリンティング、再生医療、組織工学における知見が、食のイノベーションに与える影響力は大きい。
3Dプリンターによる食のイノベーションは続く
Redefine Meatは先月にはイスラエルの食肉販売会社Best Meisterと提携を発表。
この提携により、Redefine Meatの植物ベースの3Dプリント肉が今年前半に、イスラエルのレストランや高級肉専門店などで販売される。
今回調達した資金で、ポートフォリオを拡大し、商品の市場投入や海外展開を進める。年末までに3Dプリンターによる大量生産をオンラインにすることを発表している。
まずはレストランなどでの販売となるが、同社が目指すのは今年中に3Dプリンターとカートリッジを世界中の食肉販売業者に販売すること。
肉の生産プラットフォームを入手できれば、これまで動物肉を販売していた業者が、3Dプリントされた植物肉を販売できるようになる。
この点は、同じくイスラエルのFuture Meatsの戦略と似ている。
3Dプリンティング技術で食の改革に取り組むのはRedefine Meatだけではない。
冒頭でも書いた通り、アレフ・ファームズは培養リブロース肉の3Dプリントに成功したことを今月発表。
同じくイスラエルのSavorEatは、昨年、テルアビブ証券取引所に上場した。
SavorEatは、3Dプリンターを使って調理済みのバーガーパテを6分で作っており、今年夏までにイスラエルの人気ハンバーガー店でテスト販売を開始する予定。
Meat-Techも2019年にテルアビブ証券取引所に上場している。2020年12月には厚さ10mmの培養した牛脂肪構造の3Dプリントに成功。同社は米国IPOに向けた準備も進めている。
スペインでは、Novameatが3Dプリンターにより牛や豚のステーキ肉を開発し、今年になってから世界9位のミシュラン2つ星レストランとの提携を発表した。
さらにオーストリア発の学生が立ち上げたLegendary VishはRevo Foodsに社名を変更、春にリリースされる商品とは別に、当初から注力していた3Dプリンターを使ったサーモンの刺身を開発している。
今回のラウンドはHappiness CapitalとHanaco Venturesが主導し、ほかにもCPT Capital、Losa Group、Sake Bosch、K3 Venturesが参加した。
参考記事
Redefine Meat Raises a $29M Series A Round for its 3D-Printed Plant-Based Meats
Redefine Meat raises $29 million for launch of 3D-printed meat-substitute meals
Why 3D printing is ideal to replicate animal meat
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アイキャッチ画像の出典:Redefine Meat