アイルランドのスタートアップSea&Believeは、ビーガン向けホールカットのタラを発表した。既に製品化している海藻を用いたカツやバーガーはアイルランドの50か所で販売されている。
IndieBioで代替タラのフィレのデモを行った創設者のJennifer O’Brien氏は、アイルランドの海藻の機能性に関する研究に携わってきた。若いころに慢性喘息に良いと海藻を食べていた同氏は、後に研究から海藻に含まれる天然成分に様々な効果を見つけている。
代替タラが重要である理由
フィッシュアンドチップスは英国やアイルランドではサンデーローストのように人気のある伝統食だ。20世紀にタラの需要が増加して漁獲量が増えすぎたうえに、タラの生息環境の変化や海洋汚染もありタラは絶滅寸前種と考えられている。気候変動は更にタラの個体量に影響を与えるだろう。
タラは冷たい深海ものが高級品とされるが、地球の気温上昇で海水温も上がるとタラは冷たい環境を求めて棲むようになってしまう。フィッシュアンドチップスには足りなくなるため、代替タラが重要となるのである。
資金を調達して海藻農場の設置へ
O’Brien氏が最初にアイルランドの海藻に関心を抱いたのは、脱カーボンや海洋酸性化に対する対策となると考えたからだった。同氏は「アイルランドの海藻に何か特別な成分があることはわかっていたので、その要因を解明して事業化していきたかった」と述べている。
ホールカットの代替タラは市場ニーズとのギャップを埋めるものとして期待される。完成すれば1尾あたり25gのタンパクを含み、代替魚肉では初めて普通の魚肉のようにほぐせるものとなる可能性がある。
研究開発を進めるためにSea&Believeは300万ドル(約3.8億円)の資金調達を得ようとしている。資金を調達できればアイルランドの北西に新たな海藻農場を作って海藻の供給体制を整えることも考えている。
魚の乱獲対策としての海藻養殖
海藻養殖はSea&Believe独自のモデルではないが、魚介類タンパクの乱獲対策として広がる可能性がある。海藻養殖は持続可能で多くの品種の海藻が短期間で収穫できてその活用法も多い。
海藻は代替魚肉の他に意外な製品の基本素材としての可能性も検討されている。
カリフォルニアのUmaro Foods(旧名Trophic)はAgFunderがリード投資家として300万ドル(約3.8億円)の資金調達を得て海藻ベーコンを開発している。
食品以外ではドイツのスタートアップVyldが海藻由来の持続可能なタンポンを製造している。開発の背後には体に良いだけでなく月経製品の民主化という考えもある。海藻タンポンには漂白剤は不要でVyldは「ケルポン」と名付けている。
海藻養殖により食品素材を生産している例としては、寒天やアルギン酸がよく知られている。寒天はテングサ属の海藻から得た多糖類で日本では古くからところてんなどに利用されてきた。
同様に海藻から生産している多糖類としてはカラギナンがゲル化剤としてゼリーやグミ、プリンなどに広く用いられている。このカラギナンを含む海藻トチャカの一般名をirish mossと言い、カラギナンという名称はこの海藻の集積地であるアイルランドの海辺のCarragheenan村に因んだもので、Sea&Believeが拠点とするアイルランドは海藻の利用で長い歴史があると言える。
寒天やカラギナン、また、海苔に利用している紅藻類は、既に年間1800万トン以上が収穫されているが、紅藻類には大豆の5倍のタンパクが含まれることから代替タンパク源の有力な候補の一つとして今後も検討が進むものと考えられる。
参考記事
‘It Flakes Like The Real Thing’: Irish Startup Debuts Whole-Cut Vegan Cod
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アイキャッチ画像の出典:Sea&Believe