イギリスの培養肉スタートアップIvy Farmが、培養肉のパイロット工場を正式に開設したことを発表した。
イギリス、オックスフォードに設置された18,000平方フィート(1672㎡)の施設は、年間2.8トンの培養肉を生産でき、Ivy Farmによると欧州最大規模となる。
培養肉では欧州最大の施設を開設したことで、同社はコスト削減とスケールアップの実現にさらに近づいたことになる。
欧州最大の培養肉パイロット工場がオープン

出典:Ivy Farm
オックスフォード大学のスピンオフベンチャーであるIvy Farmは、農家・肉屋出身のRuss Tucker氏が2021年に設立した。Ivy Farmは培養ソーセージを開発しており、昨年12月にはイギリスで広く展開している小売業者Heck Foodsと、培養ソーセージを導入するための提携に向けた交渉をしていることが報じられた。
新しいパイロット工場はオックスフォード大学近郊に位置し、生産プロセスで使用する600Lのバイオリアクターが設置されている。これにより、Ivy Farmの新規製造プロセスを微調整するプラットフォームが提供されるという。

CEOのRichard Dillion氏 出典:Ivy Farm
CEOのRichard Dillion氏は、「欧州最大のパイロット工場を建設し、研究開発施設を拡張したことで、地球、人そして動物のために罪悪感のない本物の肉を生産するという私たちの使命に向かって大きな一歩を踏み出せました」とコメントしている。
約1600㎡のこの施設にはパイロット工場、ラボ施設、オフィススペースとイノベーションキッチンが収容されている。新しいオフィスには約50名の研究チームが配属され、イノベーションキッチンでは、社内の研究者やシェフが同社の培養ひき肉を調理して実験することができるという。
イギリスの培養肉市場は8年後に最大2700億円規模に成長

出典:Oxford Economics
CE Delftのレポートは、培養肉は従来の畜産と比較して、炭素排出量を最大92%削減し、土地利用を95%削減できると試算している。
オックスフォード・エコノミクスがIvy Farmと共同で昨年発表したレポートによると、培養肉業界は2030年にはイギリスGDPに21億ポンド(約3300憶円)を超える付加価値をもたらす可能性をひめており、同年には9,200~16,500の雇用を生み出す可能性があるという。
同レポートはさらに、イギリスの培養肉市場は2030年には8億5000万ポンド(約1300憶円)~17億ポンド(約2700憶円)になると予想。これは、2020年のコーヒーや卵に対するイギリス消費に近く、市場シェアの90%が小売、残りが外食産業で発生すると予想される。
Ivy Farmは2023年までに小売やレストランを通じてソーセージやミートボールなどひき肉ベースの培養肉製品の上市を目指している。同社は2025年までに培養豚肉の年12,000トン生産を目標としている。

出典:Ivy Farm
イギリス、欧州では培養肉の認可を取得した企業はまだなく、予定通りに進むかは規制プロセスに左右されるところが大きい。
ドイツのBluu Seafoodのように、認可事例のあるシンガポール上市を優先する企業もあり、欧州を拠点としていても、最初に認可がおりる国が欧州になるとは限らない。
認可を取得し、スーパーに培養肉製品が陳列されるまであと数年はかかると予想されるが、Ivy Farmのほかにも、イスラエルの培養肉企業Steakholder Foods(旧称MeaTech)の子会社Peace of Meatが来年ベルギーに約2000㎡のパイロット工場の稼働計画を進めるなど、社会実装に向けた取り組みが進められている。
参考記事
Ivy Farm Unveils Europe’s Biggest Cultivated Meat Pilot Production Facility
Unveiling Europe’s ‘largest’ cultivated meat pilot plant
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アイキャッチ画像の出典:Ivy Farms