カカオ価格の高騰が続く中、代替カカオに関するニュースが増えている。
最近では、培養カカオを開発するCelleste Bioが資金調達を行ったことに加え、デンマークのセブンイレブンがカカオフリーチョコレートを使用したクッキー製品を年末までの期間限定で提供することが報じられた。
このチョコレートは、デンマークのスタートアップ企業Endless Food Coによって開発されたもので、ビールの醸造過程で発生するビール粕をアップサイクルして製造されている。「THIC(This Isn’t Chocolateの略)」と名付けられたこの代替チョコレートは、チョコレートとは異なる素材でありながら類似の食感と機能性を実現しているという。
Green queenの報道によれば、デンマーク国内のセブンイレブン180店舗で取り扱われるとされている。Endless Food Coはまた、プレシードラウンドで100万ユーロ(約1億6,000万円)を調達した。
デンマーク国内のカフェ、レストランに導入
Endless Food Coの代替チョコレートは昨年より、デンマークのカフェやレストランなど一部店舗に導入されている。
昨年7月にはベーカリーショップIl Bucoと提携し、これまでに「THIC」使用のパンやタルトが期間限定で提供されている。昨年9月にはベーカリーショップKafにも導入され、その後の導入も確認されている。
今年9月には、コペンハーゲンのサンドイッチショップAbrikosで「THIC」使用のアイスクリームが1日限定で提供された。
同月には、ピザレストランDiamond Sliceが協業祝いとして、ピザオーブンで焼いた「THIC」使用のチョコレートクッキー200個を無料提供。その後もクッキーの提供を継続するなど、デンマーク国内での取り扱いを拡大していることがうかがえる。
公式サイトによると、2023年の下半期だけで1万個以上の「THIC」使用の焼き菓子が販売されたという。
ビール粕活用の代替チョコ:日本の特許技術の可能性に期待
チョコレートは、森林伐採を引き起こす食品リストで5位、食品サプライチェーンにおける温室効果ガスを排出する食品・飲料で5位に位置し、環境負荷が指摘されている。
一方、大麦麦芽の不溶性固形残渣であるビール粕は、醸造工程で最も多く発生する副産物であり、醸造廃棄物全体の85%を占めるといわれる。ビール1リットルの生産で約20kgのビール粕が発生するため、世界では毎年約3,640万トンのビール粕が発生しているという。
しかし、ビール粕は水分含有量が多く、腐敗しやすいため保存期間が短いことから、現在は主に動物飼料や埋め立ての利用に限られている。
カカオの高騰やチョコレートの環境問題から、カカオの代替素材を開発する企業は増えているものの、ビール粕を活用した代替チョコレートの事例は多くない。
ビール粕をアップサイクルする代替チョコレート企業では、フランスのGreen Spot Technologiesがある。同社はアップサイクルを軸にした企業で、製品の1つにビール粕、果物、野菜をもとに作られた「Ferment’Up Cocoa Alt」がある。
日本でもビール粕を活用した代替カカオの研究事例が確認された。
不二製油はココアバターやカカオの代替素材に関する研究開発について、2024年の総合報告書の中で「中長期成長とサステナブルな食の未来の実現に向けて欠かせない研究テーマ」だと位置付けている(p36)。今年3月には、新製品として「プラントベースチョコレートMB」を発表した。
興味深いことに、同社はビール粕由来の代替カカオ開発に関する特許を取得している。同特許によると、ビール粕をアルカリ条件下で加熱したところ、良好な食感と風味が得られたとしている。これにより、同社がビール粕を活用した新しい代替カカオ技術を模索している可能性があると考えられる。
現時点で同社の代替カカオの研究開発に関する具体的な発表はない。しかし、デンマークでビール粕をアップサイクルした代替チョコレートが市場に出ている現状を踏まえると、日本国内でも同様の製品が登場する可能性は十分にある。同特許によると、日本国内では年間約100万トンのビール粕が発生しており、その有効活用による代替チョコレートの開発は、ビールメーカーにとって新たな事業機会となることが期待される。
参考記事
Danish Startup Partners with 7-Eleven to Debut ‘THIC’ Upcycled Cocoa-Free Chocolate
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アイキャッチ画像の出典:Endless Food Co