植物分子農業を活用し乳タンパク質を開発するKinishが、シードラウンドで1億2,000万円を調達した。
今回の資金調達には、ジェネシア・ベンチャーズ、ライフタイムベンチャーズ、Full Commit Partners、三菱UFJキャピタルが参加している。
Kinishは、2023年1月に橋詰寛也氏によって創業されたスタートアップで、分子農業技術を駆使し、牛乳に含まれる主要な乳タンパク質の一つであるカゼインを生成する独自のイネを開発している。このイネは高さ20cmの矮性品種であり、大規模栽培を可能にするために、同社は植物工場の開発も進めている。
調達した資金は、カゼイン生成の研究開発の加速、および植物工場の研究開発にあてられる。また、分子農業を用いたカゼイン開発と並行して、米由来のアイスクリームの製品化を進め、日本・アメリカでの市場投入を計画している。
イネで乳タンパク質を開発するKinish、1.2億円を調達
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出典:Kinish
Kinishは、分子農業を活用し、チーズの伸びやなめらかさに重要なカゼインをコメに生成させることで、乳製品を完全に代替するソリューションの開発に取り組んでいる。この技術によって、従来の畜産を必要とせず、環境負荷を大幅に軽減した持続可能な食品の提供を目指す。
代替乳製品市場は拡大を続ける一方で、消費者がリピート購入しない主な理由として「味」が挙げられることが多い。たとえ健康や環境、動物福祉に貢献できる製品であっても、美味しくなければ定着しない。
「人が生きるうえで『ちょっとした感動』は欠かせないものであり、美味しい食事こそがその役割を果たすと考えています。しかし、差し迫る環境問題の中で、そうした食の喜びを享受する機会は加速度的に減少していくのではないかと危惧しています」と橋詰氏は語る。
「だからこそ、私たちは「美味しくてサステナブルな食品」を世界中に広げることを目指し、Kinishを創業しました」(橋詰氏)。
現在、Kinishはイネ由来のカゼインに先行して、米をベースとしたアイスクリームの上市を目指している。日米での発売に向けた採用活動も続けている。
アメリカでの事業展開を加速するため、昨年9月には、Wildcard IncubatorとUnion Kitchenが支援する支援プログラムに採択された。
分子農業を活用した乳タンパク質の開発に取り組む企業はKinish以外にも存在する。Mozza Foods、Alpine Bio、Mirukuなどが主なプレーヤーだが、分子農業による乳タンパク質で認可を取得した企業はまだない。
大豆を活用したカゼインミセル開発に取り組むMozza Foodsは、今年、最初のサンプル提供を目指していると昨年Foovoに述べた。同じく大豆を活用してカゼインを開発するAlpine Bioは、昨年、ネブラスカ州でカゼインを含有する大豆の大規模収穫を実施した。
分子農業の先駆者とされるMoolec Scienceは、牛タンパク質を生成するエンドウ豆や、豚タンパク質を作る大豆で米国農務省(USDA)の承認を取得しており、アメリカ食品医薬品局(FDA)の認証に向けたデータ収集を進めている。
Kinishの植物工場を活用した独自の取り組みは、分子農業による代替乳製品市場の発展に大きなインパクトを与える可能性を秘めており、今後の展開が注目される。
参考記事(プレスリリース)
日本発のグローバルフードテックスタートアップ、株式会社Kinishがシードラウンドで1.2億円の資金調達を実施
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アイキャッチ画像の出典:Kinish