アルゼンチンとアメリカに拠点を置くバイオテック企業ERGO Bioscienceは、植物細胞培養によりウシのミオグロビン、牛乳に含まれるカゼインを開発している。
同社は植物細胞培養による革新的な原料開発を目指して2020年に設立された。
同社のEukaryaというプラットフォームにより、複雑な動物タンパク質を効率的に発現できる植物細胞株を得られるという。現在の焦点は、ウシ由来のミオグロビンと同等の「Ergo-Myo」と、αS-1カゼインとκカゼインをブレンドした「Ergo-Casein」となる。
多くの企業がミオグロビンやカゼインの開発に、精密発酵や植物分子農業を活用している。
例えば、米インポッシブル・フーズは初期から精密発酵で大豆レグヘモグロビンを開発し、EU市場進出に向けて前進している。米New Cultureは今年2月、世界で初めて精密発酵カゼインでGRAS自己認証を取得した。
植物分子農業では米Mozza Foodsは大豆で、イスラエルのFinally Foodsはジャガイモで、日本のKinishはイネで乳タンパク質を開発している。
これらの企業とは異なり、ERGO Bioscienceは、植物細胞に特定のDNA配列を導入し、バイオリアクターの中で植物細胞を増殖させて、特定の生体分子や植物バイオマスを生成する植物細胞培養という技術を使用している。植物分子農業と植物細胞培養は似ているようにも思えるが、前者が植物を栽培するのに対し、後者は細胞を増やす点が異なる。
同社は以前より自社の技術について「植物細胞の精密発酵」と呼んでいるが、一般的には植物細胞培養というカテゴリに分類できる。
植物細胞を使用する理由として、細菌や酵母のようにバイオリアクター内で速く増殖できること、植物細胞は哺乳類細胞と同じタンパク質発現機構を備えていることを挙げている。そのため、動物由来のタンパク質と同等のタンパク質を、効率的に短期間で生産できるとしている。
特に植物細胞培養の場合、液体培地で未分化な状態で増やすことができるという。植物には生涯を通じて分裂を続け、他の器官を生み出していく分裂組織(meristem)という器官がある。これは哺乳類の幹細胞のように全能性があることを意味するとERGO Bioscienceは述べている。過去の報道によると、ニンジンの細胞を利用して動物タンパク質を生産している。
今月、カナダに子会社を設立したことを発表した。同社は昨年、カナダのフードテックインキュベーターGlobal Agri-Food Advancement Partnership (GAAP)が開催した2週間のプログラムに参加しており、カナダでの子会社設立の背景にはGAAPとの連携も関係していると思われる。2023年には工業生産に向けてイタリア企業Aethera Biotechと提携した。
食品領域において植物細胞培養スタートアップが開発する対象はさまざまだ。代表的な企業には、明治ホールディングスと提携するCalifornia Culturedがある。同社は植物細胞培養でチョコレート、コーヒーを開発しており、年内にアメリカでカカオフラバノールの上市を目指している。
フィンランドでは2022年に大手チョコレートメーカーFazerがフィンランドの国営研究機関・フィンランド技術研究センター(VTT)と共同で、細胞培養カカオの研究開発を開始している。
参考記事
The Role of Engineering Biology
Ergo Bioscience Creates “Animal Proteins, Without Animals” for the Next Generation of Plant-Based
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アイキャッチ画像の出典:ERGO Bioscience