2025年3月7日更新
2021年に創業したボストンに拠点を置くスタートアップ企業Brown Foodsは、細胞培養により生成した「世界初」の全乳「UnReal Milk」を発表した。
Brown Foodsが細胞培養による全乳生成に成功

出典:Brown Foods
マサチューセッツ工科大学(MIT)傘下のホワイトヘッド生物医学研究所が実施した第三者的分析によると、「UnReal Milk」にはα-S1-カゼイン、α-S2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ラクトフェリン、アルブミンなど、乳タンパク質の主要成分をすべて含むことが確認された。
Brown Foodsはまた、「UnReal Milk」には従来の乳製品と同じ乳脂肪、炭水化物が含まれることも確認した。
MITのRichard Braatz教授は同社技術について、「精密発酵とは異なり、Brown Foodsの技術の最大の強みは哺乳類細胞培養を用いている点にあります。これにより、牛乳のすべての成分を一緒に生産することが可能になり、さらにバイオリアクターシステムを活用して技術を拡張し、人間が消費するための大量のミルクを生産できます。この技術の画期的な点はその拡張性にあります」と評価している。
精密発酵技術では特定の成分のみを生産するが、Brown Foodsは哺乳類細胞培養を用いることで、ミルクのすべての成分を同時に生産できる点が特徴となる。
Brown Foodsは、これまでに主要なタンパク質、脂肪、炭水化物をすべて含む細胞培養ミルクを発表した企業はなく、同社はわずか3年間でこれを達成したと述べている。
Forbesの報道によると、Brown Foodsは2025年に試食試験の実施、2026年に市場試験を予定している。共同創業者のSohail Gupta氏はForbesのインタビューで、自社技術を使うことでヒトの母乳を含む、あらゆる哺乳類のミルクが生産できると述べ、培養牛乳に留まらない可能性に言及している。
Brown Foodsによると、500リットルのバイオリアクターで45頭以上の牛が生産する量に相当するミルクを生成できるという。
培養ミルクの開発動向

出典:Senara
細胞培養によりミルクや母乳を開発する企業はBrown Foodsだけではない。
ドイツのSenaraは2023年12月、細胞培養ミルクを低コストで生産できるプラットフォームを開発したことを発表した。Senaraは当時、「2028年までに、細胞培養ミルクはスーパーマーケットの棚に並ぶ標準的な選択肢になるでしょう」と述べている。
フランスのNümiは細胞培養によりヒト母乳成分を開発している。
細胞培養で牛乳を開発するカナダ企業Opaliaは昨年3月、製品開発の加速に向けて、200万カナダドル(約2億円)の資金調達に成功した。
2022年11月に細胞培養で作成したヨーグルトの開発に成功したイスラエルのWilkは、主なターゲットとして、乳児用粉ミルク用の培養母乳脂肪を開発している。ダノンから出資を受ける同社は昨年5月、母乳成分を使用した高齢者向けの医療食品開発でPluriとの戦略的パートナーシップを発表した。
一方で、2020年に設立され、培養母乳成分の開発から始まり、母乳由来のHMOなど生理活性物質の開発にシフトした米BIOMILQは先月、破産申請したことが報じられた。
細胞培養では培養肉の認可が進む一方で、魚、ミルクの認可を取得した企業はまだない。
従来の牛乳と同等の成分を持ちつつ、より持続可能な方法で生産できる培養ミルクは、既存業界にとって代替策とみなされる傾向にあるが、長期的には既存製品の価値を向上させる補完策となり、既存産業と補完しながら共存していく可能性がある。さらに、従来の酪農では牛乳を生産できない宇宙や南極など、極限環境でも牛乳を生産できる可能性を秘めている。
参考記事
The World’s First Lab-Made Whole Cow Milk is Here
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アイキャッチ画像の出典:Brown Foods