代替プロテイン

菌糸体由来チーズを開発するベルギー企業Bolder Foods、資金調達難で事業終了を発表

 

菌糸体由来チーズを開発するベルギーのBolder Foodsは今月、資金調達難により事業終了を発表した。

共同創業者のIlana Taub氏がリンクトインで発表した

Bolder Foodsは代替チーズとしての菌糸体の可能性に着目し、液中発酵プロセスにより菌糸体由来の原料MycoVegを開発。

菌糸体バイオマスの中でも代替チーズに焦点をあてる企業は少なく、Bolder Foodsの逆張り戦略には筆者も個人的に注目していた。昨年6月にはジボダン主催のイベントで、菌糸体由来のチーズの試作品を発表し、特に「クリーミーさ」が評価されたと発表していた

今年、MycoVegの小規模な販売を目標としていたが、Taub氏の投稿によると、出資者はいたものの、十分でなく、資金調達ラウンドを完了できなかったために事業閉鎖にいたったという。

2024年以降、負のニュースが続く

出典:Bolder Foods

同社の閉鎖は単独イベントではない。2024年以降、菌糸体・発酵分野では負のニュースは複数確認されている。

スウェーデンのMycorenaは昨年7月に財政難により倒産し、ベルギー企業Naplasol買収された

Quornブランドの親会社Monde Nissinは今年2月、2024年決算で8000万~1億ポンド(約153億円~191億円)の減損損失を計上する見通しであると発表した。またQuornは昨年初頭に、販売減少などを理由にオランダ・ベルギーの小売から撤退し、外食サービスでの供給を継続すると決断した

北米では菌糸体肉の代表的企業Meati Foodsが、過去の評価額の160分の1以下の価格で売却申請されるという事態に陥っている

Bolder Foodsは「菌糸体×代替チーズ」というニッチ戦略で差別化し、一定の評価を得ていたと思われる。それでも資金調達ラウンドを完結できず事業終了するという事実は、現在の発酵・マイコ系スタートアップの競争の激化と生き残りの難しさを物語っている。

欧州の発酵タンパク投資は実は伸びている

出典:出典:Bolder Foods

しかし、発酵タンパク質分野全体で見ると資金流入は好調だ。

GFI Europeが4月末に公表した最新記事によれば、欧州のバイオマス発酵企業が2024年に調達した資金は1億1900万ユーロで前年比10%増となった。精密発酵企業に集まった資金、1億2,000万ユーロと合わせると、発酵タンパク質全体で計2億3,900万ユーロを集め、前年を大きく上回った。

それでもBolder FoodsMycorenaなどの事例からは、発酵タンパク分野で資金調達に成功する企業(昨年ではInfinite Rootsなど)もあれば、調達難で事業閉鎖を余儀なくされる企業もあるという二極化が進んでいることがうかがえる。

発酵タンパク質分野における投資額の回復は明るい材料だが、プレーヤーの急増と市場成長ペースのギャップが一致しない、あるいは拡大するならば、今後もBolder Foodsのような撤退例が出る可能性がある。特にマイコプロテインは、新規参入が相次ぐ一方で、植物性代替肉ほど確立した市場ができあがっているとは言い難く、市場投入までの資金の確保とともに、需要の伸長・品質の保証をいかに両立させるかが重要になると思われる。

 

※本記事は、LinkedInの発表をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Bolder Foods

 

関連記事

  1. 銀行による資金回収で窮地:菌糸体代替肉の代表企業Meati、40…
  2. Melt&Marble、精密発酵脂肪の生産で1万L超へ…
  3. 香港の代替肉企業グリーンマンデーが植物ベースの代替魚に参入!
  4. 中国発の植物代替肉スタートアップHero Proteinが登場!…
  5. 藻類を活用した代替タンパク質製品を開発するAlgama Food…
  6. 培養肉企業21社の生産工場・稼働状況まとめ-2022年11月時点…
  7. EUが出資するFEASTSが発足:欧州における培養肉・培養シーフ…
  8. オーストラリアv2foodが約57億円を資金調達、植物性代替肉で…

おすすめ記事

米Thrilling Foods、層状の脂肪を含んだビーガンベーコンで特許を取得

アメリカ、ポートランドの代替タンパク質企業Thrilling Foodsは、植物…

デンマークのセブンイレブン、Endless Food Coのビール粕由来代替チョコを使ったクッキーを限定販売|日本でもビール粕利用の開発事例

カカオ価格の高騰が続く中、代替カカオに関するニュースが増えている。最近で…

分子農業で代替タンパク質と成長因子を開発するスタートアップ企業4社

分子農業(Molecular Farming)とは、植物を「バイオリアクター」「…

オーストラリアのVow、南半球最大の培養肉工場をオープン

オーストラリアの培養肉スタートアップVowは、年間30トンの培養肉を生産できる同…

米培養肉Upside Foods、培養肉用のアニマルフリーな増殖培地を開発

アメリカの主要な培養肉企業Upside Foods(旧称メンフィスミーツ)はアニ…

【現地レポ】Perfect Dayの精密発酵乳タンパク質を使用したミルクを試食@シンガポール|精密発酵ミルクの現在地を確認

精密発酵技術で生成された食品がアメリカ、シンガポールなどで販売されている。…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

リアルセミナー@東京のお知らせ【2025/6/18】

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(06/12 15:18時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(06/13 01:13時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(06/13 05:12時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(06/12 21:18時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(06/12 13:22時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(06/13 00:26時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP