オランダ大手スーパーAlbert Heijn(アルバート・ハイン)は、2024年に販売するタンパク質の47%を植物由来に引き上げる目標を掲げていた。
タンパク質転換目標は2023年に公表され、①2025年までに販売するタンパク質の50%を植物由来に、②2030年までに60%を植物由来にするロードマップを示している。
実際には2023年時点で44.5%(注:当初44.1%から上方修正)に到達したものの、2024年は44.2%にとどまり、目標の47%を下回った。
注:2023年の年次報告書では44.1%とされているが、2024年の年次報告書では上方修正された。
目標未達の主因

出典:Albert Heijn「2024 Sustainability
Report」
アルバート・ハインは年次サステナビリティ報告書(オランダ語版・英語版)で、目標を達成できなかった理由を 「二つの課題」 として整理している。
1つ目は、動物性タンパク質が依然として人気がある点だ。特に、Magere kwark(低脂肪カッテージチーズ)、鶏胸肉、プロテイン入り乳製品など、動物性タンパク質を主成分とした製品の販売が好調で、消費量が増加したことを挙げている(p79)。
2つ目は、食習慣を変える難しさだ。消費者は植物性食品のメリットを理解しているものの、慣れ親しんだ選択肢を選びがちで、「植物性食品を頻繁に増やす」という考えに慣れていないとアルバート・ハインは分析している。そのため、行動の変化が必要であり、これは繰り返しと複数回の肯定的な体験を要する長期的なプロセスになるとしている(p79)。
同社は、こうした状況を踏まえ、キャンペーン、商品開発、価格戦略を通じて、行動変容に取り組んでいく考えを示している。
報告書は「これらの課題により、2025年に50 %を達成するのは非常に困難で、ほぼ達成不可能になった」と明言している(p79)。
AH Terraブランドの成果と売り場戦略

Foovo(佐藤)撮影 2024年10月オランダ
植物タンパク質の目標は未達に終わったものの、アルバート・ハインが2023年に立ち上げたプラントベースの自社ブランド「AH Terra」は売上の面で一定の成果を上げている。2024年にはラインナップを200品から250品に拡充し、2024年第4四半期の売上は前年同期比で20%増と、一定の成果を示した(p80)。
筆者は2024年秋、オランダの複数の店舗を訪れたが、このPBブランド「AH Terra」が店舗の多くのコーナーに展開されていることに驚かされた。
冷蔵コーナーに並ぶ代替肉や植物性ヨーグルトのみならず、加工食品、缶詰、さらにはスープやアイスの棚に至るまで、淡い緑のパッケージが目を引いた。乳製品売り場でもナショナルブランドと並ぶ形で配置されており、PBでありながらも“選ばれる存在”としての設計がなされていた。
実際に現地の棚を見て感じたのは、単なる商品の配置ではなく、「どこにいてもAH Terraが目に入る」という接触頻度の高さが消費者の無意識に働きかけているという点だ。こうした戦略は、認知や信頼形成を目的とした長期的な視点に基づくものであり、植物性食品の選択を日常の延長に置く意図が感じられた。
2024年の植物性タンパク質販売比率は目標に届かなかったが、この単年の結果を持って、代替タンパク質市場全体を「低迷」と断じるのは早計だと思う。
アルバート・ハインが指摘するとおり、消費者行動の変容には時間がかかる。筆者自身、たとえばお気に入りの代替肉(ファミリーレストランのデニーズで提供されているZERO Meatプレートなど)があっても、外食のたびに必ずそれを選ぶわけではない。動物性から植物性への切り替えがいかに根強い習慣の壁と向き合うものか、日常の中で実感している。
だからこそ、現地で目にしたAH Terraの売り場戦略には、そうした壁を越えるための“下地”が着実に築かれているように感じられた。店舗内の至るところで自然と目に入るパッケージ、カテゴリを超えた展開、PBとしての信頼感の演出。それらはすべて、短期的な成果ではなく、長期的な行動変容を見据えた構造であり、スーパーの「本気」を感じさせるものだった。
この売り場展開とブランド戦略については、現地写真とともに詳述した下記記事・セミナーでレポートしている。筆者が訪れたのは4店舗、記事で紹介したのは2店舗と少ないが、視認性、配置、カテゴリ横断の展開といった工夫が、どのように行動変容を後押しする可能性があるのか、現場視点からレポートしている。
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