出典:GFI APAC
細胞性食肉(培養肉)の特許出願で中国が勢いを増していることが明らかになった。
GFI APACの最新分析によると、細胞性食肉分野の「上位20出願人」のうち中国が8団体、アメリカは3団体となった。中国の出願人には江南大学、浙江大学、中国海洋大学など複数の大学が含まれている。
GFI APACのRyan Huling氏はこの動きについて、政府の強い関心、国家レベルのエコシステム構築に向けた意図的な協力体制を示唆するものだと報告の中で述べている。
特許分析においては、同一発明に紐づく関連出願の集合をパテントファミリー、これを統合せず公報1件ずつ数えたものを個別特許(公報ベース件数)がある。技術革新の広がりを測るには、国・地域ごとの重複を含まないパテントファミリー数の方が適しているとGFIは説明している。
パテントファミリーでは中国が最も多く、アメリカ、韓国がそれに続く。(管轄別の)個別特許数でも中国が首位となっている。

出願人の国・地域別のパテントファミリー数 出典:GFI APAC
アメリカでは特許所有権の大部分を民間セクターが占めているのに対し、中国では特許出願者の大半が公的機関に帰属しているという事実(上記画像)は、細胞農業を軸とした包括的なイノベーション・エコシステムの構築に向けた中国の国家的な取り組みが広がっていることを示唆しているとHuling氏は指摘する。

(管轄別の)個別特許(公報ベース件数) 出典:GFI APAC
出願人上位にはUpside Foods、Mosa Meat、中国のJoes Future Food、Believer Meats、江南大学などが並ぶ。GFIによると、いずれも食品または食肉用に動物細胞を培養するものに関連し、対象技術は細胞株、培地、足場、製造の効率化など幅広い。特許公開は出願から最長18カ月遅れるため、2023〜2024年分に出願されたものが今後さらに積み上がる見込みとなる。
具体例として、江南大学は無血清培養システムの細胞性食肉における応用に関する特許、Joes Future Foodは自発的に不死化するブタ筋肉由来幹細胞株に関する特許などを出願している。
政策面から見える中国の動き

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政策面からも、中国が細胞性食品を含む代替タンパク質を強化する動きが読み取れる。
まず、習近平総書記は以前より「大食物観(中国語:大食物观)」という言葉を提唱してきた。「大食物観」には、広い視点から農業と食料を捉え、多方面かつ全面的に食料資源の開発を進めるという意味が含まれている。
中国の中央政府がその年特に重視する分野を示す「中央一号文件」においては、2024年から2025年にかけて表現に変化がみられ、2025年に「新たな食品資源の開拓」という表現が初めて登場し、より踏み込んだ内容となった。
具体的な動きとして、今年1月、北京市豊台区に中国初の細胞性食肉・微生物発酵に特化した代替タンパク質センターが設立された。
5月には、「北京市平谷区代替タンパク質産業のイノベーションと発展を加速するための行動計画(2025-2027)」が発表された。2027年までに平谷区を代替タンパク質のイノベーション・応用において中国をリードする拠点とすることを目指しており、代替タンパク質には植物タンパク質、微生物タンパク質、細胞性食品が含まれている。
また今年、韓国・ソウルで開催された第55回Codex食品添加物部会(CCFA55)に中国国家食品安全リスク評価センター(CFSA)が参加し、細胞性食品用培地の安全性評価ガイドライン策定について議論が行われた。シンガポール、中国、韓国、サウジアラビアが共同議長となり作業部会を結成し、翌年に向けて検討を進めることで合意している。
さらに、中央政府だけでなく、広東省など地方でもバイオものづくりを重視する具体的な動きが見られ、この文脈の中でも「細胞性食品」という用語が明記されていることは注目に値する。
こうした中国の姿勢を裏付ける水面下の動きが、GFI APACが報告した特許動向であり、中国が技術主導、政府主導、規制面の三点を同時に抑え、細胞性食品分野でも世界の主導的ポジションを狙っていることがうかがえる。
Foovoの調査では、細胞性食品のスタートアップ数では中国は韓国に及ばないが、こうした動きを受け、中国でも大学初ベンチャーなどスタートアップがさらに登場していく可能性がある。
※本記事は、GFIの報告記事をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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