フィンランド技術研究センター(VTT)の研究チームは先月、細胞農業によりコーヒー豆を使わずにコーヒーを生産することに成功したことを発表した。これは培養肉の生産と同じ技術を使用する。
コーヒーの需要は増しているが、十分なコーヒー豆の生産には多くの土地を必要とする。ベトナムではコーヒーの生産が森林破壊を引き起こしており、研究チームを率いるHeiko Rischer博士は代替手段の採用は理にかなっていると考える。
気候変動による気温上昇、不規則な雨量などにより、コーヒーの収穫量は変動しやすい。コーヒーは特に気候変動の影響を受けやすい作物とされる。また、食品サプライチェーンにおいてコーヒーは、6番目に温室効果ガスを排出する食品・飲料とされる。こうした理由から、より持続可能で環境負荷の少ない生産方法が求められている。
研究チームは、研究室でコーヒーノキの細胞を培養し、栄養成分を含んだバイオリアクターで増殖させた。すると白色のバイオマスができあがった。これを乾燥させ、焙煎するとコーヒー粉末のような焦茶色となった。
植物細胞に使用する培地は動物細胞用ほど複雑ではないため、細胞から牛肉を生産するよりも簡単だという。
培養肉の生産では量産が1つの課題となるが、Rischer博士は次のように語る。
「植物細胞は培地で浮遊して自由に成長しますので、スケールアップも簡単です。これに対し動物細胞の場合は表面に付着させる必要があります」
出来上がった粉末でコーヒーを淹れたところ、味も香りも本物のコーヒーのようだったという。
Rischer博士によると、さまざまなコーヒー品種の細胞培養を確立し、焙煎プロセスを変更すれば、異なる特徴を持つコーヒーを生産することができる。たとえば、培養プロセスを変更することで、カフェインや風味の程度を調節できる。
研究チームは商用化に向けて企業との提携を視野にいれている。今後も持続可能な生産方法でコーヒー豆を生産する農家は存続していくだろう。しかし、コーヒー需要の高まりに伴い、細胞培養によるコーヒー生産が新たな産業となる可能性は高い。
ヨーロッパで細胞培養によるコーヒーを販売するには、EUで新規食品(Novel Foods)として承認される必要がある。Rischer博士は、生産を強化し、許認可を取得するまで4年と見ている。
実のところ、VTT研究チームより40年近く前に、細胞培養によるコーヒーの生産を提唱した研究者がいた。P.M.Townsley氏は植物細胞の懸濁培養によるコーヒー生産に関する研究論文を1970年代に発表していた。
代替肉を中心とする持続可能な食品開発の対象が、肉、乳製品、魚、卵からさまざまな食品へと拡大している。アメリカのCompound Foodsは、合成生物学を活用してコーヒー豆を使わないコーヒー生産に挑戦している。スイスの研究チームは細胞培養によるチョコレートの開発を発表した。
世界で最もコーヒーを消費するフィンランドで、人々が飲むコーヒーが工場で生産されたものになる日はそう遠くないかもしれない。
参考記事
In Finland, scientists are growing coffee in a lab
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アイキャッチ画像の出典:フィンランド技術研究センター