韓国のCellMeatは細胞培養用のウシ胎児血清(FBS)フリー培地を開発し、この培地を用いた細胞培養により独島エビのプロトタイプを開発した。
FBSフリー培地は生産コストの低減だけでなく、培養肉産業が抱える倫理面での懸念の回避にもなるものと期待される。細胞培養技術を代替シーフードに活用する動きは今後も拡大していくものと考えられる。
開発の進む培養培地
CellMeatは2019年にテックインキュベーターというスタートアップ向けの韓国プログラムに参加者として選ばれ、2021年には培養肉分野で筋肉幹細胞を検討する研究チームの一員として指名されている。今回開発した細胞培養用のFBSフリー培地は世界的にも意義のあるものとしている。
新たに製品化された無血清培地CSF-A1は、昨年初めにプレシリーズAとして実施された資金調達後に行った研究開発の成果であり、計画では調達資金の投入により他社に先行してコストダウンを進めることを目指している。
CellMeatのCEO Giljun Park氏は、「我々の無血清培地は細胞の増殖を維持するだけでなく、他の無血清培地やFBSを含む従来の培地に対して、実験では約250%の増殖速度を示すなど、すばらしい製品だ」と述べている。
Park氏は更に、今回の成果により、韓国の培養肉業界もイスラエルや米国のように莫大な資金を調達している国との開発競争に加わることができるようになる、との考えを示した。
FBS不使用の流れ
FBSは初期の培養技術では培地に広く使用されていたが、今は組成から外す取り組みが盛んに進んでいる。
これはFBSが細胞培養システムでは大きな変動要因となるという科学的要因もあるが、ウシの胎児からFBSを生産していることから倫理面の懸念がより大きい。FBSの使用は制限、もしくは全廃すべき、という考えが一般的となっている。
培養独島エビの開発
CellMeatは、自社で開発したFBSフリーの無血清培地を用いて独島エビ細胞を培養し、世界初となる培養独島エビのプロトタイプを開発したことも発表している。
自社で特許を有する組織工学技術により食感を、足場技術によりエビの形状を本物に近いものに再現した。CellMeatが培養エビの開発に成功したことにより、今後、ロブスターやタラバガニといった養殖のできない高価な品種の開発が優先して進むものと考えられる。
培養独島エビは現在、5人の研究チームにより日産5キロで生産できるというが、今後、簡単で安価なスケールアップ方法の確立が検討されるだろう。
韓国の代替タンパクバリューチェーンの唯一のコンサルタントファームであるTechnoPlusのCEO Jimmy Sohn氏は、試食した培養エビを想像以上の食感と味だったとして、政府の支援とプロモーションにより2年以内には世界市場で上市できるだろうと述べている。
一方、CellMeatは商品化には課題を克服することが必要であるとの認識で、培養肉の定義についても韓国政府はまだ結論を出していないため、製品規格や製造基準も設定されていない。
韓国やアジアにおける代替タンパク開発の動き
培養肉や代替タンパク分野で韓国の存在感を示そうとしているのはCellMeatだけではなく、多くの会社がアニマルフリー肉で成果を出している。
培養肉のスタートアップSeaWithは、2022年の年末までに韓国のレストランに培養肉製品を出すことを発表している。培養肉分野でアニマルフリー肉を開発することにより、消費者に肉食が環境破壊とはならない選択肢を提示しようとしている。
植物由来肉ではZikooinが穀物からアップサイクルしたビーガン用の牛肉スライスをUnlimeatブランドで上市し、アジア最大級の植物由来肉の生産工場を建設することも発表している。
培養シーフードではCellMeatの独島エビのほか、シンガポールのShiok Meatsが成果を出しており、累計3000万ドル(約33億円)の資金を調達して小規模プラントを開設している。この拠点は、スケールアップ検討や生産だけでなく研究開発拠点としても想定している。
香港ではAvant Meatsが、ベトナムでシーフード製品を生産しているVinh Hoan Corporationとの間で戦略的な提携関係を結び、代替シーフードの販売網や生産規模を飛躍的に拡大しようとしている。Avant Meatsは提携発表後、生産コストの削減を加速するとともに小規模工場をシンガポールに建設することを発表している。シンガポールを工場用地として選んだのは、培養肉の規格基準が既に決まっていて早く市場に導入できるためである。
シンガポールは培養肉の販売を認可している唯一の国で、現状、承認を取得している会社はイート・ジャストのみとなる。同社は最初に培養チキンナゲットの認可を受け、昨年には培養胸肉の形態で認可を取得した。
米国も規格承認を急いでいるがシンガポールのようには進んでいない。Upside Foodsは2021年の年末をまでに培養肉製品を米国で展開する計画だったが、培養肉の定義はまだ認可されず、政府からの報告も出されていない。
参考記事
South Korea’s CellMEAT Debuts World’s First Cultivated Dokdo Shrimp Prototype
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アイキャッチ画像の出典:CellMEAT