代替プロテイン

二酸化炭素、水素から脂肪を開発する米Savorがバター試作品を開発

2025年6月26日更新

カリフォルニア州サンノゼに拠点を置くSavorはこれまでと異なるアプローチで代替脂肪を開発している。

Savorは、二酸化炭素、熱、水素、酸素を使用した熱化学プロセスで代替脂肪を開発している。同社は二酸化炭素と水素を加熱、酸化させて脂肪酸を分離し、脂肪を形成するプロセスを開発した。その結果、牛乳、チーズ、牛肉、植物油脂から得られるような本物の脂肪分子を得られるという

二酸化炭素を原料にタンパク質をつくるソーラーフーズに似ているように思えるが、ソーラーフーズのプロセスでは微生物を使うのに対し、Savorは微生物を使用しない化学プロセスとなる。

Savorのプロセスでは、水、エネルギー、炭素源のみを使用して工場で脂肪を製造するため、植物油脂のように多くの土地や水を必要としない。理論的に地球上のどこでも製造できる

化石燃料を直接食品に変換

バター試作品 出典:Savor 共同創業者Henrik Bennetsen氏のLinkedIn

Savorは、Henrik Bennetsen氏Kathleen Alexander氏Ian McKay氏によって2022年に設立された。

同社は、化石燃料をエネルギー源にした牛肉、ジャガイモなどの食品を食べる代わりに、「人間が化石燃料を食べればいいのではないか?」という共同創業者Ian McKay氏の突飛ともいえるアイディアから始まった

チームは、化石燃料を脂肪、タンパク質、炭水化物などの食品に変換するために考えられるあらゆる方法を図解。

そしてわかる範囲でライフサイクル排出量、土地使用量、水使用量を算出した。次に農業由来の栄養素の排出量、土地使用量、水使用量に関する文献データを調べた。結果は、人類が化石燃料を食べれば、つまり化石燃料を食品に変換すれば、現在の農業システムよりも地球にとって劇的に良くなるというものだった。

農業なしで食料を生産する化学的プロセスに着目した分析結果は、「Food without agriculture」のタイトルで昨年、nature sustainabilityに掲載された。

同論文によると、ブラジルやインドネシアで生産されるパーム油による温室効果ガス排出量を二酸化炭素換算量にすると1.5g/kcalを超えるのに対し、化学合成される脂肪に伴う二酸化炭素換算量は0.8g/kcal未満と、環境負荷が低いことが示されている。

研究チームは論文の中で、タンパク質、脂肪、炭水化物のうち、脂肪から着手した4つの理由を挙げている

  • 脂肪は熱化学的に合成するのが最も簡単な栄養素の1つである
  • 脂肪は過去に大量合成に成功した唯一の主要栄養素である
  • 脂肪は多くの食品において味覚的に区別されない「ベースロードカロリー」である
  • 大豆やパームなどの油糧作物による環境負荷は大きい

脂肪の合成生産は技術的に準備ができた状態で、経済的に実現可能であり、影響をもたらす可能性が高いことを突き止めたSavorは、これまでに化石燃料で作られたバター試作品を生成している(下記写真)。

出典:Savor

Savorが作る脂肪は、天然ガスなどの化石燃料、または補足した二酸化炭素とグリーン水素から作られるが、後者の場合、排出量をより減らせるもののコストが高くなるとしている。

スウェーデンでも脂肪を化学合成する企業が登場

出典:Savor   氏のLinkedIn

今年2月、ビル・ゲイツ氏は「Savorの製品を食べてみたが、バターを食べていないとは信じられなかった」と評価した

Savorは代替バターから着手するが、ミルク、アイスクリーム、チーズ、肉、植物油脂の代替品を開発する予定だ(その後、公式サイトでは記載は確認できなくなっている)。今年取得した特許からは、食品だけでなく洗剤や化粧品などさらに幅広い業界を視野にいれていることがよみとれる。

同様の試みはSavorだけではない。スウェーデンのGreen-Onもまた、二酸化炭素、水素、酸素を使用した化学プロセスにより代替脂肪を開発している。同社もバターチーズココナッツオイルなどの代替品を開発済みで、大手油脂メーカーとも提携している

 

参考記事

Behind the Scenes of our Article in Nature Sustainability

Savor Successfully Develops Dairy & Plant-Free Butter From CO2 and Hydrogen

Food without agriculture

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Savor

 

関連記事

  1. 海藻由来の代替タンパク質を開発する米Trophic|大豆に代わる…
  2. 目の前で焼かれる培養肉、その香りはまさに牛肉だった|関西万博レポ…
  3. 植物性刺身を開発するOcean Hugger Foodsが復活|…
  4. 独Nosh Biofoodsが赤身肉のようなマイコプロテインの開…
  5. 精密発酵スタートアップが欧州の「不透明な」規制枠組みの改善に向け…
  6. 食肉大手JBSが培養肉に参入、培養肉企業BioTech Food…
  7. Nature’s Fyndがカナダで微生物由来タンパク質Fyの認…
  8. ミツバチを使わない「本物のハチミツ」を開発する米MeliBio

おすすめ記事

精密発酵でラクトフェリンを開発する米De Novo Foodlabs、商用化に向けて約2.2億円を調達

ノースカロライナ州に拠点を置く精密発酵企業De Novo Foodlabs(旧称…

誰もが食べられるグルテンを開発するUkko、食品アレルギーにパラダイムシフトを起こす

Beyond Celiacによると、1800万人のアメリカ人がグルテンアレルギー…

培養肉企業アレフ・ファームズ、培養コラーゲン事業への参入を発表

※写真はアレフ・ファームズが2024年の上市を目指す培養コラーゲンのプロトタイプ…

コオロギタンパク質を生産するエントモファームズが約3億円を調達

コオロギタンパク質粉末を開発するEntomo Farms(エントモファームズ)が…

英Ivy Farm、欧州最大の培養肉パイロット工場をオープン

イギリスの培養肉スタートアップIvy Farmが、培養肉のパイロット工場を正式に…

米Superbrewed Food、腸内細菌由来のタンパク質について米国GRAS認証を取得

アメリカ、デラウェア州を拠点とするSuperbrewed Foodは先月、腸内細…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

精密発酵ミニレポート発売のお知らせ

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

▶メールマガジン登録はこちらから

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

最新記事

Foovoセミナー(年3回開催)↓

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,760円(10/16 16:07時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(10/16 02:34時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(10/16 06:14時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(10/15 22:07時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(10/16 14:07時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(10/16 01:25時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP