アメリカのThe Better Meat Co.が開発したマイコプロテイン「Rhiza」がシンガポールでの販売認可を取得した。
シンガポール市場では既にQuornブランドのマイコプロテイン製品がスーパーマーケットチェーンで広く取り扱われているが、この新たな認可により、地元の消費者はさらに多様なマイコプロテイン製品を手にする機会を得ることができるようになった。
The Better Meat Co.は今年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)から「Rhiza」に対するGRAS認証を取得した。シンガポールでの販売認可が得られたことで、持続可能な代替タンパク質としてのマイコプロテインの市場拡大が一層促進されることが期待される。
The Better Meat Co.がシンガポールで認可を取得
「Rhiza」は100g中タンパク質を45.27g、カルシウムを57.2mg含み、体内での消化・利用のしやすさを示すPDCAAS(たんぱく質消化性補正アミノ酸スコア)は平均0.91と、カゼイン、ホエイ、卵などに近い。同社は「Rhiza」について、タンパク質単離物ではなく全バイオマス成分のため、大豆、小麦、エンドウ豆などを使用した植物肉とは一線を画していると述べている
The Better Meat Co.は「クリーンミート」の著者で知られるPaul Shapiro氏が2018年に設立した。初期では植物タンパク質を開発していたが、その後、Neurospora crassaを使用したマイコプロテイン「Rhiza」の開発へとシフトした。
Perdue FarmsがThe Better Meat Co.の植物タンパク質を肉増量剤として使用したハイブリッド製品は、7,000箇所のスーパーで販売されている。一方、「Rhiza」はプラントベースレストランBuddha Belly Burgerなどで代替ステーキとして提供されているものの、まだ商用規模に到達していないと公式サイトで言及している。
8月にアメリカ国防総省(DoD)から148万ドル(約2.1億円)の助成金を獲得したことで、スケールアップを進めていくと思われる。
日本市場におけるマイコプロテインの進展
Foovoの認識では、日本国内ではマイコプロテインの製品は展開されていないものの、昨今、マイコプロテインの事業化に向けた動きは加速している。
ヤヱガキ醗酵技研は昨年5月、オランダのNIZO Food Researchと菌糸体由来の代替肉開発で協業したことを発表した。同社は、国内にキノコ菌糸体を大量生産できるサプライヤーが存在しない現状に着目し、この分野でサプライヤーとなることを目指している。
数百種類の菌糸体株をスクリーニングし、大量培養条件を検討した結果、味・培養速度・タンパク質含有量において有望な独自の菌糸体株を発見したという。この菌糸体株を使用した代替肉を上市するために、代替肉の分野で研究開発が先行するオランダのNIZOとの提携にいたった。
筑波大学の萩原大祐准教授はマイコプロテインを使った代替肉の開発に向けて、8-9月にクラウドファンディングを実施。目標額を上回る調達に成功し、事業化に向けて目下準備を進めている。
今年4月には日本甜菜製糖が、ノルウェーのマイコプロテイン企業Norwegian Myceliumの日本法人であるNoMy Japanと戦略的パートナーシップを発表した。
6月にはお好みソースで知られるお多福醸造・オタフクソースがマイコプロテイン事業への参入を発表。米を原料として、麹菌による発酵プロセスでマイコプロテインを生成するAgro Ludens(アグロルーデンス)による技術指導のもと、お多福醸造が商用生産に向けた製法開発と試作品製造を行う。Agro Ludensは今月、農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業の対象に選出され、約10.7億円の交付を受けることが発表された。
このように、日本国内ではマイコプロテインを活用した代替肉の開発が進行している。
マイコプロテインは高タンパク質で食物繊維を含み、肉に近い食感を実現できる特性を持つほか、生産期間の短さから持続可能で健康的な代替タンパク質源として期待される。副産物のアップサイクルも可能であるため、他業界の参入を呼び込める可能性もある。欧米における先行事例は多いが、日本政府の積極的な支援により、この分野でのイノベーションが促進され、国際市場で競争力を持つ新たな産業の育成が期待される。
参考記事
The Better Meat Co. Expands to Asia with Singapore Approval for Rhiza Mycoprotein
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アイキャッチ画像の出典:The Better Meat Co.