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オーストラリアのVow、香港で培養肉販売認可を取得|シンガポールに続き2例目

 

オーストラリアの培養肉企業Vowが香港で培養肉の販売認可を取得した。香港で培養肉の販売が認められるのはこれが初。

Vowは今年4月、シンガポールでの販売認可取得を発表、高級レストランで培養ウズラを提供した。現在もシンガポールのレストラン3箇所(Tippling ClubFuraFiz)で販売を続けている。

Vowが4月のシンガポールでの初提供時に述べていたとおり、香港での販売が実現した。

Vow、香港で培養肉の販売認可を取得

出典:Vow

Vowは、すでに入手可能な肉の再現に細胞培養を使用するのではなく、これまでに達成できなかった食品を創出することを目指している。その成果として今年、最初の製品となる培養ウズラ、「Forged Parfait」をシンガポールで販売した。

香港では「Forged Parfait」と、フォワグラに着想を得て培養ウズラを使用した新製品「Forged Gras」を提供する。

Forged Gras」は培養ウズラを51%使用しており、野菜とハーブを注入した水素添加ココナッツオイル、ヒマワリ油、そら豆タンパク質、こんにゃくなどで作られている。ホテルMandarin Orientalにある高級バーThe Aubreyで提供される。

香港での承認について、同社CEO(最高経営責任者)のGeorge Peppou氏は、シンガポールでの承認は香港当局の基準を満たす上で「重要な証明ポイントとなった」とGFI APACコメントしている

各地域の規制に相互承認が認められると、複数市場での承認取得にかかる時間は短縮される。GFI APACはこの実現を目指しており、国境を超えて規制当局など関係者が対話の場を持てるよう、2023年にAPAC規制調整フォーラム( APAC Regulatory Coordination Forum)を設立した。

シンガポールに続き、香港での承認は、Vowが進めているオーストラリアでの承認プロセスにプラスの影響をもたらすと考えられる。

Vowは2023年1月にオーストラリアで申請を実施し、現在認可を待つ状態にある。オーストラリアでは現在、2回目のパブリックコメントを募集しており、2024年12月24日18時が期限となる

Green queenの報道によると、Vowは、コスト削減と開発サイクルの短縮を目的に、垂直統合を進めることで社内生産システムを構築した。また、スペースXのスターシッププログラムのエンジニアなど最先端産業から人材を招き入れ、自社専用の設備を開発。世界最大規模の食品グレードの20,000Lバイオリアクターを、市場推定コストの80%以下で設計・製造することに成功したという。

この取り組みにより、競合他社よりも迅速かつ低コストで生産を拡大し、顧客に選ばれる製品を提供できるとしている。

アジアで進む培養肉規制-日本の法整備はこれから

出典:Vow

GFI APACによると、香港・マカオの食品規制当局と中国の食品規制当局はシステムが異なるため、中国本土で培養肉を販売するには北京当局の承認を得る必要がある。しかし、中国では現在、規制プロセスは整備されていないという。

現在、シンガポールアメリカイスラエル香港で培養肉の販売が認められている(ペットフードではイギリスも)。

Vowの香港進出を受けて、これまでシンガポール・ファーストだった動きがより広範な市場展開へと広がりを見せることが期待される。

シンガポールではすでに複数企業が認可を待つ状態にあり、仏Vital Meatは年内の承認を期待している。

アジア圏内では、韓国の解禁にも期待感が高まる。韓国では今年2月に培養肉の規制プロセスが明確化され、5月には培養肉特区が設置された。

培養エビを開発する韓国企業CellMeatなど申請済みの企業もあるが、シンガポールと異なり、申請費用が高い点(約500万円)がスタートアップ企業にとって課題になると思われる

一方で、これらの国々と比較すると、日本は培養肉に関する法整備が遅れているものの、細胞農業研究機構(JACA)が中心となって政府に具体的な提言を行い、法整備の推進に取り組んでいる。JACAはAPAC規制調整フォーラムにも参画している。

香港での承認は、日本にとって具体的な参考事例になるだけでなく、APAC規制調整フォーラムへのJACAの参加を通じて、さらなる法整備を後押しする可能性を秘めている。同フォーラムは、各国の規制当局や関係者が協力し、規制プロセスの相互承認を目指している。香港やシンガポールといった市場の先進事例が共有されることは、日本の法整備における重要なヒントとなると思われる。

特に香港の事例は、シンガポールに続き、アジア圏内での成功例として注目される。これが日本政府や行政にとって、培養肉市場の将来の可能性と国際的な競争力の重要性を再認識させる契機となるかもしれない。

 

参考記事

HISTORIC: Cultivated meat now for sale in Hong Kong—a first in China

 

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アイキャッチ画像の出典:Vow

 

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