2022年に精密発酵企業Standing Ovationと提携したBel Goupが、精密発酵カゼインの製造における副産物の活用を目指し、新たな取り組みを発表した。
今回の提携の焦点となるのは、乳製品の製造で生じる副産物である酸性乳清(acid whey)。
精密発酵で“ホエイタンパク質”を生成する企業も多くあるため、天然のホエイが“不要物”とされる背景に混乱を覚える読者もいるかもしれない。
ホエイ(乳清)は、牛乳を凝固・ろ過した後に残る液体で、甘い乳清(sweet whey)と酸性乳清の2種類に分けられる。甘い乳清は商用用途がある一方で、酸性乳清はミネラル、乳糖、有機酸を含む一方で、タンパク質含量が非常に低く、産業用途としての利用が限られている。
Standing Ovationによれば、このような副産物を生産に直接再統合する取り組みは、乳業界全体にとって「画期的イノベーション」だという。
欧州委員会の報告によると、酸性乳清は水中の酸素濃度を低下させる恐れがあり、環境負荷への懸念から、欧州では廃水処理場への排出が禁止されている。酪農業界では年間推定1億8,000~1億9,000万トンのホエイが生産されており、酸性乳清の処理には高額な費用がかかるとされ、未活用の酸性乳清を有効活用するソリューションが求められている。
Bel GoupとStanding Ovationの提携では、現在十分に活用されていない酸性乳清を精密発酵によるカゼイン生産にアップサイクルすることを目指す。
Bel GroupはKiriなどのチーズ製品を製造する世界的なチーズメーカーであるため、製造過程では副産物である酸性乳清が生じる。これをStanding Ovationに提供すれば、同社が酸性乳清に含まれる糖類を原料に、独自の精密発酵技術によりカゼインへと転換することができる。
二社の提携は、Bel Goupが掲げる「食用可能な製品の破棄をゼロにし、破棄が避けられない場合には食品廃棄物を100%回収する」という理念にも合致する。
乳清残渣を活用したマイコプロテイン生産も

出典:Bel Goup/Standing Ovation
この取り組みは、チーズメーカーにとっても大きな意義を持つ。
チーズの製造工程では酸性乳清が副産物として発生するが、その処理には高いコストがかかり、環境負荷も小さくない。特にギリシャヨーグルトの製造では酸性乳清が多く発生する。
Standing Ovationの技術により、こうした副産物を付加価値の高いタンパク質へと変換できれば、チーズメーカーなどの乳業メーカーは環境負荷の軽減と収益性の向上を同時に実現できる可能性がある。
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アイキャッチ画像の出典:Standing Ovation