代替プロテイン

EU、精密発酵・バイオマス発酵を基盤技術に位置付け―米国は支援と後退が交錯

 

欧州委員会は7月2日、「Choose Europe for Life Sciences」戦略を発表し、2030年までにEUを世界で最も魅力的なライフサイエンス拠点へ引き上げると宣言した

本戦略は提案の一環として、官民連携のイノベーション推進およびスタートアップ・中小企業支援を通じ、持続可能な先進的発酵技術のスケールアップと普及を目指すことを掲げている(PDF p17,28)。先進的発酵技術として精密発酵およびバイオマス発酵をあげ、再生可能原料を用いて低環境負荷で多様な高付加価値製品を生み出せる基盤技術と位置付けている(PDF p16)。

欧州委員会は、EU予算からHorizon Europe等を通じて年100億ユーロ(約1兆7,000億円)超を動員する。

その中からバイオものづくりを含む産業横断的なライフサイエンス技術における研究・イノベーションの支援に向けて2億ユーロ(約340億円)、バイオエコノミー・バイオマス分野のリーダーシップ強化に向けて1億5,000万ユーロ(約257億円)計3.5億ユーロ(約597億円)を「Work Programme 2026-2027」の一環で充当する計画となる(PDF p6,17)。

さらに2026–2027年に最大1億ユーロ(約171億円)を投じる「One Health Microbiome Initiative」を実施する(PDF p13)。

規制面では「European Biotech ActEUバイオテック法)」により、EUの規制環境をイノベーションに適したものにすることを目指す。これにより、イノベーターや投資家を呼び込み、スピンオフ企業やスタートアップが「研究室から市場へ」移行する障壁を下げることを目指すとしている(PDF p22)。

出典:Standing Ovation

一方、アメリカでは政策の方向性に温度差が見られる。

アメリカでは4月に国家安全保障委員会NSCEB)がバイオテクノロジー分野における競争力強化に向けて今後5年間で最低150億ドル(約2兆2,000億円)の資金提供を求める報告書を発表し、「National Biotechnology Initiative Act(2025国家バイオテクノロジーイニシアブ法案/HR2756)」が議会に提出された。国防総省傘下のBioMADEも4月末、ミネソタ州でのパイロット規模のバイオものづくり製造施設建設に向けて1億3,200万ドル(約194億円)を拠出すると発表している

一方でトランプ大統領は3月14日、バイデン政権で制定されたバイオものづくりを推進する大統領令14081号を含む一連の大統領令を「有害だ」として撤回している。ホワイトハウスは環境政策を後退させる一方で、国防目的ではバイオものづくりを重要技術と位置付けて投資が行われており、今後、「National Biotechnology Initiative Act」が可決されるかに注目したい。

シンガポールでは3月、新規食品要件を一部改訂し、新指針が公表された。新規食品の試食を実施する場合の申請期限が8週間前から基本10週前まで延長され、準備期間を長めに確保したい当局側の意向がうかがえる。

各国で発酵や新規食品を成長産業と位置付ける姿勢は共通している。アメリカでは、国防目的での支援は継続される一方、大統領令の撤回により民間向けの規制改革や資金支援が停滞する可能性もあり、今後、企業の活動環境にどのように影響するか注視される。

 

※本記事は、プレスリリースおよび公式資料をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:European Commission

 

関連記事

  1. Meati Foodsの菌糸体肉、全米のホールフーズ全店舗で発売…
  2. Vivici、精密発酵ホエイでGRAS認証を取得—規制強化が迫る…
  3. ダノンが精密発酵企業Imagindairyに出資、細胞農業企業で…
  4. インポッシブルフーズがオーストラリア・ニュージーランド進出へ向け…
  5. ウキクサで気候変動に挑むFloatmeal、北海道のレストラン導…
  6. 代替タンパク質の普及促進を行う国際シンクタンクGood Food…
  7. Betterland foodsがパーフェクトデイのアニマルフリ…
  8. モサミートが培養肉の工業生産に向けて生産施設を拡大

おすすめ記事

自律型サービスロボットを開発したBear RoboticsがシリーズBで約100億円を調達

接客ロボットと人工知能を活用したソリューション領域での先駆者であるBear Ro…

フランスのYnsectは昆虫由来のバーガー、ナゲットの販売を目指す

フランスの昆虫食企業Ynsectが開発するバーガーやナゲットが、数年以内にイギリ…

海藻由来の代替タンパク質を開発する米Trophic|大豆に代わるタンパク質源の「主役」となるか?

植物ベースの代替肉といえば、大豆、えんどう豆などが主流だが、数年後には、海藻が主…

ベルギーのPaleoがペットフード業界に参入|精密発酵ミオグロビンを使用したペットフードの特許を出願

精密発酵でヘムを開発するベルギー企業Paleoが今月、ペットフード業界への参入を…

食肉大手JBSが培養肉に参入、培養肉企業BioTech Foodsの買収で合意

ブラジルの食肉加工世界最大手JBSは18日、スペインの培養肉企業BioTech …

Forsea Foods、培養うなぎの開発で細胞密度3億個/mL超を達成

今年は培養うなぎで大きな進展が相次いだ1年になった。8月、北里大学の池田…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

2025年・培養魚企業レポート販売開始

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(07/13 15:27時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(07/14 01:27時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(07/14 05:25時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(07/13 21:31時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(07/13 13:30時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
698円(07/14 00:37時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP