出典:NovoNutrients
CO₂由来タンパク質を開発するガス発酵スタートアップの米NovoNutrientsが、7年以上にわたる事業を経て、資産売却することが明らかになった。
同社元CEOのDavid Tze氏はリンクトインで、「これは、私たちがメガトン単位のCO₂を回収し世界に食料を供給することを目指して始めた時に思い描いた結果ではありません。しかし、技術の可能性は今も変わりません」とコメント。
「適切な手に委ねられ、十分な資本があれば、炭素とタンパク質に関する私たちの考え方を変える可能性があります」と述べ、この技術の有望性を強調している。
NovoNutrientsは現在、Assignment for the Benefit of Creditors(ABC)という、債務者がすべての資産を譲渡人に譲渡し、譲渡人が資産を現金化し、債権者に分配するアメリカの清算手続きに入り、全資産の売却を進めている。
対象となるのは、ガス発酵技術、商標(NovoteinおよびNovoceuticals)、非GMOの独自微生物株などの知的財産と、数年間の運営データを備えた研究・パイロット生産設備、CO₂由来でタンパク質含有率73%やカロテノイドを生産する技術などの技術資産となる。
同社は、これらを得ることで「市場投入期間を5年短縮できる」と説明しており、CO₂回収・代替タンパク・バイオテックの事業者に対して入札を呼びかけている。入札期限は2025年7月31日。
NovoNutrientsは排ガス由来のCO2、水素、酸素を原料に、独自の微生物を用いて食品や飼料向けの単細胞タンパク質原料を開発する企業として2017年に事業を開始した。
同社は2022年5月、自社タンパク質のPDCAAS(たんぱく質消化性補正アミノ酸スコア)が、牛肉スコアと同等の1.14を達成したことを発表した。日本企業とも協力して、さまざまな排ガスをクリーンなタンパク質に変換できることを確認していた。
2023年5月にはカロテノイドのキロ単位生産に成功し、トン単位へのスケールアップを開始。
昨年7月には、世界的な大手エネルギー企業Woodside EnergyなどからシリーズAラウンドで1,800万ドル(当時約28億円)を調達したばかりで、調達総額は2,600万ドル(約38億円)に達していた。
さらに今年初頭には、サンフランシスコのエメリービルにある、パイロット設備やグリーン水素生成システムを収容した約1500㎡の施設へと移転(下記写真)し、年産1,000トンの実証プラントを次の目標としていた。

出典:NovoNutrients
一方、代替タンパク分野への民間投資は2023年に44%減、2024年も27%減と失速した。Tze氏は「技術は機能しており、私たちはパイロット段階でそれを実証しました。しかし課題となったのは、変化する投資環境の中で求められる資本集約度でした」と述べている。
ガス発酵スタートアップでは、オーストリアのArkeonが6月に破産申請し、Factory 02の工場計画を進めるSolar Foodsも、2025年2月の発表によると、工場建設や新規食品承認、市場投入に向けて大型資本投入を必要とする段階にある。
同じくガス発酵スタートアップのAerbioはAgFunderのインタビューで、「スケールアップする場合、年10万~20万トンの工場に必要なグリーン水素を誰かが製造するまで待つこともありえますが、現在そのような企業は存在しません。実証されていない新技術のために構築することになりますが、非常に難しいです」と述べている。
NovoNutrientsの資産売却は、ガス発酵業界が直面するコスト、スケールアップの課題を浮き彫りにし、資金の耐久力が生き残りを分ける展開になっていることを示している。技術自体は依然として有望であり、資本力とインフラを備えたプレーヤーが同社資産を手にすれば、CO₂由来タンパク質市場のゲームチェンジャーとなる可能性は十分に残されている。
※本記事は、David Tze氏のLinkedinの投稿をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。なお、本件は2025年7月18日にAgFunderが第一報を報じていますが、本記事の分析・数値はすべて一次資料およびFoovoの調査に基づいています。
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アイキャッチ画像の出典:NovoNutrients