培養脂肪を開発する英Hoxton Farmsは今月、ロンドンに初のパイロット工場を開設したことを発表した。AgFunder、Forbesなどが報じた。
ロンドン中心部に位置する約1300㎡(14,000平方フィート)の施設には、細胞培養室、キッチン、オフィススペースや、独自のバイオリアクターを製造するスペースが設けられている。この施設では長期的に、年間最大10トンの培養脂肪を製造できるという。
共同創業者のMax Jamilly氏は、この工場には1,000L以上のバイオリアクターが設置されており、2025年までに年間1トンの培養脂肪生産を実現できる可能性があることをAgFunderに語っている。
今回の発表は昨年11月の約32億円の資金調達に続くニュースとなった。Hoxton Farmsは初期段階では、植物肉市場をターゲットにしていくとしている。
小型バイオリアクターによるスケールアウト戦略
Hoxton Farmsは、肉と感じるための「感覚に訴える最も重要な成分」である脂肪を開発する企業として2020年に設立された。
同社は大型バイオリアクターの設計を目指す代わりに、ソフトウェアと自動化で接続された小型のバイオリアクターを多数使用するスケールアウト戦略を採用している。新しく開設したパイロット工場では、このアプローチによる大量生産の可能性を実証していくだろう。
GOOD Meatなど一部の培養肉企業は、大型バイオリアクターの建設に投資している。
共同創業者のEd Steele氏はこうした現状について、「バイオリアクターの条件を最適化するには長い時間を要し、サイズを大きくする場合は基本的にゼロスタートとなります」とForbesに述べ、同社が独自に開発した小型バイオリアクターにより、数百万ドルの投資を回避し、汚染や損失を抑えることができる可能性に言及している。
多様化する代替脂肪開発
同社が最初に開発するのは豚の培養脂肪だ。成長した豚から間葉系幹細胞(MSC)を採取し、ゲノム編集により細胞を不死化(長期間細胞分裂できる状態)している。
長期的には鶏や魚の脂肪の開発も視野にいれているようだ。
Hoxton Farmsによる細胞培養脂肪が市販されると、植物肉の味・風味をさらに改善できる可能性がある。
近年、植物肉の風味改善・植物油脂に関連した環境負荷軽減の側面から、代替脂肪の開発に乗り出す企業が増えている。
ドイツのCultimate Foodsは7月、試食イベントで培養脂肪を発表した。同社は大手食品メーカーとの協業を模索している。
日本人研究者・杉井重紀氏が立ち上げたシンガポールのImpacFatは魚の培養脂肪を開発しており、昨年12月には世界で初めて培養魚脂肪の試食会を実施した。
代替脂肪の開発では細胞培養に限らず、精密発酵を活用するNourish Ingredients、Melt&Marble、AIを活用するShiru、オレオゲルを活用するParagon Pure、Motif Foodworks、菌類由来の脂肪を開発するMycorenaなど、さまざまな技術が使用されている。
これらの中で、Hoxton Farmsなど細胞培養による脂肪は認可に特に時間がかかると予想される。同社は初期目標として、培養肉の販売が認められているアメリカ、シンガポール市場への進出を目指している。
参考記事
Inside Hoxton Farms, The First UK Cultured-Fat Pilot Plant And Its Secret Weapon
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アイキャッチ画像の出典:Hoxton Farms