出典:Nourish Ingredients
精密発酵で肉らしい風味をもたらす脂肪を開発するオーストラリアのNourish Ingredientsは2025年8月13日、糸状菌Mortierella alpinaを用いたバイオマスについて、FEMA GRASステータスを取得したと発表した。
このバイオマスは同社が開発した肉らしい風味をもたらす「Tastilux」の主成分であり、FEMA GRASにより、「Tastilux」を香料・風味成分としてアメリカで販売することが可能になった。
プレスリリースによると、中東、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドで提携契約が進行中であり、グローバル展開の第一歩としてアメリカでの販売が可能になった。
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精密発酵由来の脂肪で米FEMA GRASステータス取得

出典:Nourish Ingredients
精密発酵で動物性を模した脂肪を開発する企業は、スウェーデンのMelt&Marble、アメリカのYali Bioなど複数存在する。その中でNourish Ingredientsは、精密発酵で動物性を模した脂肪の香料・風味用途として、主要プレーヤーの中で先行事例となった。
今回の発表は、7月にMission Barnsが細胞培養脂肪でアメリカの最終承認を受けた事例に続くもので、細胞培養・精密発酵による肉様脂肪のいずれにおいても、アメリカ市場が開かれたことを示している。
「Tastilux」は動物成分を使用することなく、本物の肉のような体験をもたらす脂肪成分であり、自然なメイラード反応を起こさせることができる。主に植物性代替肉の普及を妨げてきた味、風味、表示といった課題を解決するために開発された。植物由来食品やハイブリッドタンパク質だけでなく、スナック、インスタント食品、脂肪代替品などへの用途も想定されている。
FEMA GRASは香料・風味原料の安全性を専門家審査で評価する枠組みであり、今回の判断は「Tastilux」を“香料・風味成分”として各種食品に配合できる道を開いた。
なお、M. alpina由来のアラキドン酸油は乳児用粉乳向けにFDA GRAS通知実績(例:GRN 1115、GRN 730)があり、工業生産されている一方、今回は栄養脂質ではなく“風味用バイオマス”が対象となる。

出典:Nourish Ingredients
Nourish Ingredientsは「Tastilux」だけでなく、乳製品らしい口当たりをもたらす「Creamilux」も開発しており、2024年8月にはニュージーランドの大手乳業フォンテラと提携した。
また昨年11月には、「Tastilux」の製造・販売に向けて、中国のバイオテック企業CABIO Biotechと戦略的パートナーシップを締結。
CABIO Biotechは現地の知見とネットワークを生かして中国市場における「Tastilux」の流通・販売を支援するとしており、巨大な食肉市場である中国市場進出において競争優位性を獲得したこととなる。
Melt&MarbleとNourish:戦略の違い

出典:Nourish Ingredients
Nourish IngredientsはFEMA GRASステータスを取得したが、同じく初期から精密発酵による脂肪に取り組んできたMelt&Marbleは、FDAによるGRASルートでの上市を目指している。今年1月のプレスリリースでもその旨が明記されており、2025年末までのアメリカでの販売開始を目指している。
なお、FEMA GRASの根拠となる科学的情報はFDAに提供されるが、FDAがこれを受領しても、その判断をFDAが“承認した”ことにはならない。そのため、取引先や小売の調達基準によっては、FEMA GRASよりも、「No Questions」レターを得るFDAルートを重視する企業もあり得る。
この点で、長期的にはMelt&MarbleのFDAルートが有利に働く可能性がある。一方、市場投入の実績を先に築くという点では、Nourish IngredientsのFEMA GRASステータス取得は大きな成果であり、市場形成・投資家目線のいずれからも注目に値する。今後の上市動向が注目される。
※本記事は、プレスリリースをもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:Nourish Ingredients