出典:Alpine Bio
アメリカの植物分子農業スタートアップAlpine Bio(旧称Nobell Foods)は今月、サンフランシスコで開催されたMISTAで、大豆を用いた植物分子農業によるラクトフェリンと、非遺伝子組換え大豆を用いた大豆タンパク分離物の2つの新成分を発表した。
Magi Richani氏が2016年に設立したAlpine Bioは、植物分子農業を活用し、より少ない資源で効率的にタンパク質生成を可能にするプラットフォームを開発している。
微生物を「工場」とする精密発酵と異なり、植物分子農業は植物そのものを「工場」とする手法で、遺伝子組換え植物に目的のタンパク質を生産させる。
植物分子農業は医薬品分野で先行しており、アメリカでは難病であるゴーシェ病の治療薬として「ELELYSO」が2012年に承認されたほか、国内でもイチゴを活用した犬用歯肉炎治療薬「インターベリーα」がすでに実用化されているなど、社会実装の実績がある技術である。
食品分野では精密発酵ほどスタートアップは多くないものの、植物分子農業を活用してカゼインや成長因子を開発する動きが拡大しており、国内でもカゼイン・成長因子に取り組むスタートアップが登場している。
Alpine Bioは当初、遺伝子組換え大豆を用いてチーズの伸びを再現するカゼインの開発から事業を始め、昨年11月にはネブラスカ州でカゼインを含有する大豆の大規模収穫を実施した。

出典:Alpine Bio
同社は現在、カゼイン生産から機能性タンパク質へとプラットフォームの幅を拡大している。
今月、植物分子農業によりラクトフェリンを開発し、鉄との結合する割合を示す鉄飽和度が70%とウシ由来ラクトフェリンの3.5倍に達すると発表した。また、高い抗菌特性を持つ鉄欠乏変異株も開発した。
Richani氏は、大豆からラクトフェリンを抽出・精製するのはコストがかかるため、ラクトフェリンを含む大豆そのものを原料とし、機能性食品や飲料の開発につなげる可能性についてもAgFunderのインタビューで示唆している。
同時に、非遺伝子組換え大豆を用いて大豆タンパク分離物も開発。独自の精製プロセスで得られたもので、乳タンパク質のホエイに近い働きをし、高濃度でも飲料に溶け、増粘剤や安定剤、風味マスキング剤が不要になるとしている。両成分ともサンプル注文の受付を開始している。

出典:Alpine Bio
ラクトフェリンは免疫強化や認知機能改善など多様な機能が期待されるが、牛乳にごく少量しか含まれない。今年アメリカで上市を実現した精密発酵ラクトフェリンのTurtleTreeは、供給が限られているために、ラクトフェリンは優れた作用にも関わらず、粉ミルク以外での用途展開が限られていると指摘してきた。
精密発酵分野では現在、ウシやヒト由来ラクトフェリンを用いた製品の上市が進んでいる。
Alpine Bioの取り組みは分子農業において珍しい事例であり、大豆をそのまま原料として採用することで、ラクトフェリンを高濃度で含んだ”機能性代替ミルク”など、幅広い展開が見込まれる。同社はAgFunderに対し、ラクトフェリンについてはGRASプロセスを進める計画を明かしている。
※本記事は、リンクトインの発表をもとに、Foovoの調査に基づいて独自に執筆したものです。出典が必要な情報については、記事内の該当部分にリンクを付与しています。
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アイキャッチ画像の出典:Alpine Bio