イスラエルの培養肉スタートアップFuture Meatが、培養鶏肉の生産コスト削減に成功した。
同社がコストダウン成功を発表したのは今回が2回目。
今年はじめに約113gあたり7.5ドル(約780円)まで削減したという発表からわずか3ヶ月、110gあたり4ドルまで削減したことを発表。
ファイナンシャルタイムズが第一報を報じた。
Future Meat、培養肉のコストダウンに再び成功
同社CEOのRom Kshu氏は、今後1年~1年半でさらに2ドルまでコストダウンできるだろうと見ている。
タイソンフーズから出資を受けるFuture Meatにとって、市場投入は設立当初からの優先事項だった。
他社が幹細胞を培養するのに対し、同社は繊維芽細胞を使用してコストダウンを図る。また、最初から100%培養肉にこだわるのではなく、植物肉と培養肉をブレンドしたハイブリッド肉で早期の市場投入を目指している。
比率は公表されていないが、食感、栄養面で優れる大豆、えんどう豆、きのこなどを使った植物タンパク質と、植物肉にはない風味、香りをもたらす培養肉をブレンドしている。
今回コスト削減を発表した培養鶏肉も、ハイブリッド肉だと思われる。
ハイブリッド肉は完全な培養肉よりもコストダウンしやすく、市場投入を早められるというメリットがある。
Kshuk氏もハイブリッド肉はコストダウン、大量生産の観点から「大した努力をしなくても達成できるもの」と語っている。
1年半以内にアメリカ市場に投入
培養肉の販売に成功したのはこれまでアメリカのイート・ジャストのみ。
同社は昨年12月にシンガポールのレストランで培養鶏肉GOOD Meatを販売した。
この4月にはフードパンダと提携して、シンガポールで培養鶏肉を使った弁当のデリバリーも実施している。
世界全体で培養肉が市販化されたのはシンガポールのみとなる。
Future Meatは現在、2022年のアメリカ市場投入に向けてUSDA、FDAからの許認可取得に注力している。
ファイナンシャルタイムズのインタビューに対し、「1年半以内にアメリカで競争力のある価格で商品を発売します」と語っている。
培養肉が求められる背景には、畜産による温室効果ガスの排出、森林伐採、人口増加に伴う食糧危機、動物に由来する感染症問題など、これまでの畜産の限界があげられる。
世界で50社以上のスタートアップが待ったなしの気候危機に対する取り組みとして培養肉開発にしのぎを削っている。
「あと8年で培養肉は動物肉と同等レベルになる」
培養肉が大衆化するためには、消費者に受け入れられることが不可欠だが、そのためにはイメージ改善のほかに、食感、価格、味いずれの面でも従来の動物肉と「同等」レベルを実現することが求められる。
Boston Consulting GroupとBlue Horizonの最新レポートによると、アメリカ、イギリス、ドイツの消費者11%は代替タンパク質に非常に関心がある、66%はまあまあ関心がある、または全く関心がないという結果だった。
関心のない消費者に何が改善されれば関心を持つか聞いたところ、「味」と「価格」だった。
消費者に何度もリピート購入してもらうには、動物肉と同等、またはそれ以下の価格である必要があるとレポートは指摘。そして、培養肉では特に「価格」が大きな課題となる。
アメリカで販売される鶏むね肉は110gあたり約0.8ドル。
前述のレポートは食感、価格、味の面で培養肉が動物肉と同等レベルになるのは2032年と予想。
現に、Future Meatは主要課題であるコストダウンで前進を続けているが、Kshuk氏はおおむね8年後の2029年に前倒しで実現できるだろうとコメントしている。
培養肉をめぐってはスタートアップのニュースが相次いでいる。
Future Meatのように、培養ハイブリッド肉を開発するカリフォルニアのNew Age Meatsは2月に約2億円を調達した。
培養肉企業としてアメリカで最初に上場したMeaTechはベルギーにパイロット工場建設予定を発表。MeaTechは100%培養肉の製品だけでなく、培養脂肪を既存の植物肉に組み込むハイブリッド肉のリリースも考えている。
培養魚のBlueNaluはアジアでの培養魚販売に向けて三菱商事、タイ・ユニオンと提携した。
高級肉から市場参入を狙うOrbillion Bioは約5億4000万円を調達している。
参考記事
Lab-grown chicken start-up slashes production costs
Future Meat Once Again Slashes Production Price of Cultured Chicken
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アイキャッチ画像の出典:Future Meat