代替プロテイン

食肉生産者を培養肉生産者に変えるドイツ企業Innocent Meatの「Clean meat as a service」

 

培養肉はクリーンミート、細胞培養肉とも言われ、動物を殺さずに食肉を生産する新たな手段として注目される。

培養肉は、動物の細胞があれば、栄養を含んだ培地で細胞を成長させることで本物そっくりな食肉になる。

生産過程で大量の抗生物質を使用する畜産肉と比較して、培養肉は生産過程で抗生物質や排泄物による汚染の心配がなく、クリーンな肉とされる。

2020年12月に世界で初めて培養肉の販売許可を取得したイート・ジャストの培養鶏肉 出典:Eat Just

畜産肉、プラントベース肉のように飼育や原料の生産に広大な土地を必要としないため、手法が確立されれば、多くの食品のように、工場で効率的に食肉を生産できるようになる。

高まる人口増加に伴う食糧危機の懸念から、培養肉に取り組むスタートアップは増加する一方だが、その多くの市場参入戦略は大きく2つに分類される。

1つは、自社ブランドを構築し、自社の製品として市場に出そうとするもの。

 

もう1つは、既存産業が培養肉に参入できるよう支援するサービスを提供するもの。

現状、培養肉企業のほとんどは前者となるが、後者のように川上を攻める企業もわずかだがいる。

イスラエルのFuture MeatMeaTechなどだ。そして、ドイツのInnocent Meatが新たにこのグループに加わった。

「Clean meat as a service」を目指すドイツの培養肉スタートアップInnocent Meat

出典:Innocent Meat

Innocent Meatは、培養肉を作るための自動化された培養肉生産システムを食肉生産者に提供する。

Plug-and-playと呼ばれるこのシステムには、培地、成長因子、細胞、足場など培養肉の「原料から、バイオリアクター、ろ過システムといった生産のための「ハードウェアが含まれる。さらに、AIによるクラウドベースのソフトウェアが生産全体を管理し、安全性、効率性を担保する。

パッケージ化されたPlug-and-playによって、食肉業者は設備、ソフト、チームを拡充することなく、培養肉を作れるようになる。

つまり、食肉生産者が培養肉生産者になれるよう支援するサービスであり、Innocent MeatのCEO・共同創業者のLaura Gertenbach氏は自社のサービスを「Clean meat as a service」と呼ぶ。

3つの独自技術で高い費用対効果を実現

出典:Innocent Meat

Innocent Meatによると、最初は豚肉、特に豚ひき肉に注力する。

食肉業者が同社のサービスを導入すれば、自社で豚ひき肉を細胞から作って販売したり、あるいは、ソーセージやパテに加工して販売したりできる。

長期的には豚肉には限定しないつもりだ。Plug-and-playがあれば、バイオプロセスは同じとなり、細胞を豚肉から牛肉、鶏肉に変えればよい。

「作りたいあらゆるタイプの肉を生産できますが、当社は豚ひき肉からスタートします」(Laura Gertenbach氏)

培養肉では生産コストの高さが課題とされる。

コストの大部分は成長因子にあるとされるが、Innocent Meatは独自の植物由来の成長因子ろ過システム足場技術によって、高い費用対効果を実現する。

植物由来の成長因子については、具体的にどの植物を使用しているかは明らかにされていない。

ろ過システムは、ドイツのエンジニア会社と共同開発したものを使用。

また、費用対効果の高い方法で足場を製造する独自の手法を開発している。

欧州を待たず、アジアから参入

これまでに培養肉の販売を許可したのはシンガポールのみ

昨年12月にアメリカのイート・ジャストが世界に先駆けて、シンガポールのレストランで培養肉を販売した。

しかし、欧州、アメリカでは、培養肉の販売許可はまだおりていない。

Innocent Meatはホームタウンである欧州のスピード感に懸念を示している。

「EUが(培養肉を)速く扱うかどうかには疑問が残ります。これまで、EFSAの対応が十分速くないことを見てきましたので。EUではイノベーションには難しさがあるのです」(Laura Gertenbach氏)

EUのスピード感に対する同様の懸念は、オランダの培養肉企業モサミートも示しており、同社は欧州での承認申請に1年半かかるとみている。

出典:Innocent Meat

こうしたことから、Gertenbach氏は最初の参入市場としてアジア次いでアメリカになると予想している。

欧州にも参入したい考えだが、培養肉企業が欧州での販売承認をただ待つのは得策ではないと考えている。欧州での承認を待っている間、Innocent Meatはアジアで成長因子を培養肉企業に販売することを検討している。

Innocent Meatのように、食肉生産者をターゲットとする企業には、イスラエルのFuture Meatがいる。

同社も既存の食肉産業が培養肉生産へシフトできるよう、プラットフォームの提供を長期的な目標としている。

Innocent Meat を立ち上げたGertenbach氏が農家出身であり、オーガニック肉事業の創業者でもあることを考えると、Innocent Meatが食肉生産者へサービスを提供したいと考えるのも納得できる。

培養肉は次のフェーズへ突入

Innocent Meatは現在、ニューヨーク・シンガポールを拠点とするアクセラレーターBig Idea Venturesのプログラムに参加している。

Big Idea Venturesの第3コホートは代替タンパク質に取り組むスタートアップ15社から構成され、期間は5カ月間。

Innocent Meatはニューヨークのプログラムに参加している。

左からPatrick Nonnenmacher氏、Laura Gertenbach氏、Philipp Drescher氏 出典:Innocent Meat

Innocent Meatは市場参入の具体的なタイムラインを公表していないが、昨今の培養肉をめぐる世界の動きを見る限り、許認可資金調達パイロット工場コストダウンの4点から培養肉は確実に次のフェーズへと突入している。

許認可については、アメリカのイート・ジャストが昨年12月にシンガポールのレストランで培養鶏肉を販売した。この4月にはフードパンダと提携して、シンガポールで培養鶏肉を使った弁当のデリバリーも実施している。

資金調達については、今年になってからはすでに18社以上の培養肉が出資を受けている。

パイロット工場については、UPSIDE FoodsAvant MeatMeaTechBlueNaluMission Barnsなどがパイロット工場建設を今年相次いで発表し、大量生産に向けて動き出している。

コストダウンについては、Future Meatが先日、110gあたりの培養鶏肉の生産コストを4ドルまで削減したことを発表した。同社は1年半以内にさらに2ドルまでコストダウンできるとコメントしている。

特に、シンガポールは国をあげてフードテックに力をいれており、最近では、JWマリオット・ホテル・シンガポール・サウスビーチのレストランが動物肉を培養肉に(1日の指定された時間帯)置き換える決定をするなど、積極的な試みがなされている。

Innocent Meatが狙う「アジア」がシンガポールである可能性も高い。

Innocent MeatはLaura Gertenbach氏Patrick Nonnenmacher氏によって2018年に設立され、ドイツ、メクレンブルク・フォアポンメルン州を拠点とする。

 

参考記事

‘Clean meat as a service’: Plug-and-play tech turns meat producers into cell-based pork producers

Big Idea Ventures Unveils the Third Cohort for Alt-Protein Accelerator

 

関連記事

 

アイキャッチ画像の出典:Innocent Meat

 

 

関連記事

  1. Novameatが約7億円を調達、独自3Dプリント技術による代替…
  2. 独自ヘムを開発する豪代替肉v2foodが約58億円を調達、中国・…
  3. シンガポールのSophie’s Bionutrien…
  4. 北里大学、ニホンウナギの筋芽細胞株の樹立に成功|持続可能なウナギ…
  5. ベルギーの精密発酵企業Paleoが約2.5億円のシード資金を調達…
  6. ユニリーバのBen & Jerry’s、アニマルフリー…
  7. 廃棄大麦から代替タンパク質を開発するEverGrain|世界最大…
  8. 培養肉用の安価な足場を開発するGelatexが約1.3億のシード…

おすすめ記事

フィンランドの研究チームが細胞培養コーヒー生産に関する論文を発表|コーヒーの持続可能なエコシステム構築に向けて

フィンランド技術研究センター(VTT)の研究チームは、コーヒーの持続可能なエコシ…

微生物・空気・電気からタンパク質を生産するソーラーフーズ、年内に工場着工、2023年前半に商用生産へ

空気と微生物と電気を使ってタンパク質を生産するフィンランドのSolar Food…

GOOD Meat、世界最大の培養肉用バイオリアクターの製造へ

イート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatはバイオプロセス機器のリーディング…

米Ovieが開発した冷蔵庫の食品を簡単に追跡できるスマートタグLightTags

食べ残しの料理や、蓋を開けたジャムなど「まだ食べられる」と思って冷蔵庫に保存した…

イングレディオンが砂糖削減ソリューションのBetter Juiceと提携

砂糖を削減する酵素技術を開発したイスラエル企業Better Juiceが、世界的…

Hevo Groupが代替卵製品OUVEGGをスペインのスーパーで発売

スペインの養鶏グループ企業Hevo Groupは代替卵製品OUVEGGの発売を発…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(05/08 15:05時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(05/09 00:56時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(05/08 04:56時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(05/08 21:05時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(05/08 13:11時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(05/09 00:11時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP