新しい食

二酸化炭素と水からウォッカを開発する米スタートアップAir Companyとは

 

ニューヨークを拠点とするスタートアップ企業Air Companyは、大気中の二酸化炭素を活用してウォッカを開発している。

二酸化炭素を主原料の1つとする同社のウォッカは、1本あたり温室効果ガス(GHG)排出量を450グラム取り除くことができる。既存のスピリッツが1本を生産する毎に5.9キログラムのGHGを排出するのと対照的で、カーボンネガティブなウォッカだ。

二酸化炭素から作るカーボンネガティブなウォッカ

出典:Air Company

では、一体どのようにして「空気からウォッカを作る」のか?

Air Companyがウォッカを作る仕組みは次のとおり。

まず、工場で発生する二酸化炭素を捕捉し、二酸化炭素を冷却圧縮して液体にする。次に、水を電気分解して水素と酸素を生成し、水素を二酸化炭素と共にタンクに入れる。

タンクの内部は管状構造となっており、複数の管から構成されている。管の上部にはAir Companyが特許を取得した触媒が設置してあり、二酸化炭素と水素が各管の中を上部へ移動すると、ここで反応が生じて、液体が生成される。この液体はエタノール、メタノール、水から構成されているため、独自の蒸留プロセスで各相を分離する。

出典:Air Company

エタノール、メタノール、水はそれぞれ沸点が異なるため、特定の温度まで加熱することで分離できる。まずエタノールとメタノールが水から分離される。次いで、エタノールとメタノールを分離すれば、アルコールが生成される。最後にエタノールと水を手動でゆっくりと混合すれば、アルコール度数40度のウォッカが出来上がる。

生産の最終プロセスを変更することで、ウォッカのほかに香水、砂糖、燃料の生産も可能になる。

出典:Air Company

同社は、ニューヨーク、ブルックリンにイノベーションセンターを構え、ここでウォッカを生産している。この施設は約230㎡(2500平方フィート)で、使用する電気の90%は風力発電、9%は太陽光発電による再生可能エネルギーを使用している。

現在、生産施設「Air Factory 1」を建設している。この施設は約2倍規模の約460㎡(5000平方フィート)で、スケールを10倍にする最新システムを導入するという。

ウォッカのほかに香水、消毒スプレーも販売

出典:Air Company

ウォッカ「Air Vodka with Natural Flavors」は、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、マイアミのバー、レストラン、オンラインストア、公式サイトなどで購入でき、価格は1本(750mL)あたり約80ドル。

この記事を執筆している2021年11月16日までに17,654本が生産されたという。

Air Companyはウォッカ以外に香水、抗菌スプレーも開発している。

香水「Air Eau de Parfum」は世界で最初に開発された「空気由来の香水」となり、アメリカで注文を受付中で、2022年始めに発送される。

抗菌スプレーはコロナウイルスが感染拡大する中、パンデミックの脅威に対抗するために開発された。公式サイトで、3本1セット25ドルで販売されている。

宇宙空間での応用も視野に

出典:Air Company

同社はさらに野心的な計画を立てている。

独自技術を使うことで、空気由来のジェット燃料、ロケット燃料から、宇宙で食品やプラスチックを製造するための砂糖まで開発している。

ジェット燃料については、空港の付近にモデュラー施設を設置し、施設から空港に続くダイレクトなパイプラインを建設する構想となる。

同社の独自技術は、地球だけでなく火星の大気から燃料を作りだすことができることを意味する。大気の約95%が二酸化炭素で構成される火星は、燃料を継続的に生産する好適な場所になりうる。Air Companyのエンジニアチームは、火星から宇宙飛行士が帰還するためのロケット燃料の開発に取り組んでいる。

出典:Air Company

さらに、宇宙で食品やプラスチックを製造するために、NASAの支援を受けながら砂糖の開発に従事している。今後は地球用の砂糖の開発にも着手する予定だという。

Air Companyは、地球環境の改善に共に関心を持っていたGregory Constantine氏Stafford Sheehan氏が2017年に海外で出会ったことで、2019年に設立された。これまでの調達総額は850万ドルとなる。

 

参考記事

How This Startup Is Turning CO2 Into Planet-Friendly ‘Air Vodka’

https://aircompany.com/

 

関連記事

アイキャッチ画像の出典:Air Company

 

関連記事

  1. ビーガンハチミツのMeliBio創業者に聞く|精密発酵によるハチ…
  2. 世界初|MeliBioがミツバチを使わない「本物のハチミツ」を試…
  3. 米MeliBioの蜜蜂フリーなハチミツ、2023年始めに欧州市場…
  4. 豆を使わずに細胞培養コーヒーを開発するフランス企業STEM
  5. ゲノム編集で野菜・果物に新しい命を吹き込む米Pairwiseが約…
  6. イスラエル企業Ansāが開発した電波を利用したコーヒー焙煎機e2…
  7. 細胞培養により持続可能で高品質なカカオを生産するCelleste…
  8. コロラド州の植物肉バーガー企業が米MeliBioの代替ハチミツを…

精密発酵レポート好評販売中

おすすめ記事

フードロス削減に取り組むオランダ企業OneThirdが約1億9000万円を調達

フードロス削減に取り組むオランダ企業OneThirdが150万ユーロ(約1億90…

パーフェクトデイ、精密発酵の「biology-as-a-service」を本格始動

食用タンパク質で精密発酵をリードする米パー​​フェクトデイ(Perfect Da…

酵母由来の代替パーム油を開発するオランダのNoPalm Ingredientsが植物性ヨーグルトを生成

精密発酵で代替パーム油を開発するオランダ企業NoPalm Ingredients…

イート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatが約184億円を調達

アメリカ企業イート・ジャストの培養肉部門GOOD Meatが1億7000万ドル(…

2020年の代替タンパク質投資額は31億ドルとGFIが報告、過去10年の投資額の半分が2020年に集中

GFIは、2020年は植物ベースの肉、卵、乳製品など動物性食品に代わる代替品を開…

培養肉セミナー開催レポート【岡田健成氏講演】-2022年8月-

世界人口の増加に伴う食料需要の高まりにより、2030年にはタンパク質が不足すると…

次回Foovoセミナーのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

精密発酵レポート好評販売中

Foovo Deepのご案内

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

▼運営者・佐藤あゆみ▼

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

最新記事

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,671円(04/19 12:11時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(04/19 21:26時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,782円(04/20 00:57時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(04/19 18:01時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,782円(04/19 10:46時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(04/19 21:00時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP