オランダ政府は、国家成長基金(National Growth Fund)の一環として細胞農業エコシステムの構築を支援するために6000万ユーロ(約82億円)の公的投資を発表した。
国家成長基金は構造的・永続的に経済成長を生み出す可能性の高い分野に2021年から2026年の5年間で200億ユーロ(約2兆7000億円)を投じるもので、細胞農業分野には2億5200万~3億8200万ユーロ(約345億円~520億円)を割り当てることを計画している。今回の公的投資はこの第一段階となる。
プレスリリースによると、この出資は細胞農業分野に対する政府の出資では過去最大規模となるという。資金は細胞農業の教育、研究、スケールアップのための施設、社会統合の基盤、イノベーションに使用される。
オランダ、国の成長計画として培養肉産業を支援
資金提供の提案は、デルフト工科大学、CE Delft、DSM、Meatable、モサミート、Nutreco、SDG Nederlandなどの大学、スタートアップ、NGO、バリューチェーンパートナーから構成されるコンソーシアム「Cellular Agriculture Netherlands」が行った。
6000万ユーロの公的資金は、細胞農業が世界で高まるタンパク質需要を満たすツールになるというオランダ政府の期待感の表れであり、現在の食料システムを進化させる必要があることをオランダ政府が認識している意思表示でもある。
この公的支援により、オランダでスタートアップ誕生が促進され、より多くのコラボレーションが生まれ、投資をさらに呼び込む可能性がある。これがさらなるイノベーション、投資、商用化実現という持続可能なサイクルを生み出す。政府主導の先進的な取り組みは、他国にとって参考事例にもなる。
この投資により、オランダのGDPは2050年までに100億~140億ユーロ(約1兆3000億円~約1兆9000億円)増加すると見込まれる。
「Cellular Agriculture Netherlands」代表のIra van Eelen氏は「オランダは細胞農業が繁栄するのに理想的な場所だ。細胞農業の世界的な基盤を築いたという立派な歴史があり、アメリカに次いで2番目に伝統的な農産物を輸出しており、代替タンパク質と食品イノベーションで世界を代表する国となっている。オランダはバイオテクノロジーでは世界の最前線におり、培養肉研究に公的資金を投入し、世界にその実現可能性を最初に示した国だ」とコメントしている。
Meatableの共同創業者Daan Luining氏は「培養肉は急成長している産業であり、大学から研究所まであらゆる分野の教育や研究に投資、支援を行い、多くの人にこのダイナミックな産業について知ってもらうことは重要だ。(オランダ政府による出資は)細胞農業エコシステムの開発において胸の躍る次のステップであるとともに、この革新的な産業の後ろ盾となり、すべての人にとって有益なものになる」とコメントしている。
オランダ議会が培養肉の試食を合法化
オランダは世界で最初に培養肉ハンバーガーを発表した国であり、培養肉発祥の地とされる。マーク・ポスト教授が2013年に培養肉ハンバーガーを発表後、オランダではモサミートが、アメリカではメンフィス・ミーツ(現在のUpside Foods)が設立された。
しかし、欧州で培養肉を販売するためには、新規食品として認可を取得する必要がある。認可取得には最低1年半かかるとされ、厳格な規制が欧州の培養肉企業の足かせとなっている。
この状況を打開する1つの重要な動きが3月にオランダ議会で起こった。
オランダの第二院(オランダの国会における下院)が、培養肉試供品を合法化するための動議を可決したのだ。動議はD66党(民主66党)とVVD党(自由民主党)によって提案された。これにより、政府が承認すれば、オランダ国内で管理された条件下で培養肉の試食が法的に可能となる。
オランダではこれまで、研究者であっても培養肉の試食が禁止されていたが、フランスやドイツなど他の国では培養肉の試食が実施されていた。培養肉の試食禁止は、培養肉に対する消費者の理解を遅らせる原因となっていた。
2018年にアメリカのイート・ジャストによる培養肉試食会がオランダの食品消費者製品安全庁(NVWA)によって禁止されてから、D66党とVVD党はこの問題に取り組んできた。イート・ジャストは2020年12月にシンガポールで培養肉販売を実現し、昨年末には2つ目の商品でシンガポールの販売許可を取得している。
今回の動議可決はEU当局の規制や枠組みに影響を及ぼすものではないが、オランダの培養肉産業に対する強力な後ろ盾となり、消費者の認知向上にも寄与するものとなる。
オランダ以外の国も培養肉産業に出資
培養肉産業を政府が支援する取り組みは他国でもみられる。
スペイン政府は昨年、スタートアップ企業Biotech Foods(昨年JBSが買収)に約6億5000万円を出資した。EUは2020年にBioTech Foodsが主導するMeat4Allプロジェクトに出資している。
EUはまた昨年10月、モサミートの培養肉生産コスト削減プロジェクトに対し約2億6000万円の助成金を授与している。
イスラエルでも先月、培養肉企業や研究所で構成される培養肉コンソーシアムの3年間のプロジェクトに対し、経産省傘下のイスラエル・イノベーション庁が約23億円を出資するなど、一部の国や地域では、国の成長計画の一環として培養肉産業を支援する動きが見られている。
参考記事
Dutch government agrees to invest €60M in cellular agriculture
Dutch Government Awards €60 Million To Domestic Cellular Agriculture Ecosystem
Dutch Parliament Approves Cultured Meat Tasting In The Netherlands
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アイキャッチ画像の出典:モサミート