Foovo Deep

小麦胚芽由来の低コスト成長因子を開発する名大発スタートアップNUProteinの挑戦

 

食糧危機・環境問題の解決策として期待される培養肉の生産コスト低減を目指して、コムギ胚芽を活用した成長因子を低コストで開発する企業がいる。

徳島に本社を構えるNUProtein(エヌユープロテイン)だ。今月17日、同社代表の南賢尚氏、研究員の板谷知健氏がセミナーに登壇した。

2016年設立の同社は、製粉所で発生するコムギの副産物からコムギ胚芽抽出液を作成し、これを利用した無細胞タンパク質合成による廉価な成長因子を開発している。

無細胞タンパク質合成について説明する前に、細胞の中で行われるタンパク質合成のメカニズムを見ておこう。

タンパク質合成では遺伝情報を持つメッセンジャーRNA(mRNA)、材料を運搬するトランスファーRNA(tRNA)、工場となるリボソームが必要となる。

まずDNAから、遺伝情報がmRNAに手渡される(転写という)。mRNAは情報を持っているが、材料となるアミノ酸は持っていない。これは部品がないのに、設計図だけ持って工場に立っている状況に等しい。そこで、トランスファーRNA(tRNA)が必要なアミノ酸をリボソームという「工場」まで運んでタンパク質が作られる(下図)(さらに詳しいメカニズムはFoovo代表個人ブログを参照)。

タンパク質合成の流れを図解したもの(Foovo作成)

この細胞内におけるタンパク質合成を、生細胞を使わず試験管で行うことを無細胞タンパク質合成といい、1950年代から研究事例が報告されている。

無細胞タンパク質合成では大腸菌や酵母などの生細胞を使わずに、タンパク質の「テンプレート」となるmRNAと、アミノ酸、リボソーム、tRNAなどタンパク質合成に必要な成分を加えて、試験管の中でタンパク質を作る。生細胞を使用しないため、タンパク質をつくる合成反応が細胞の生死から切り離されており、微生物を使った組換えタンパク質の生産よりも自由度が高いのが特徴だ

コムギ胚芽抽出液にはリボソームなど、タンパク質合成のために必要な分子が含まれている。従来は、使用するコムギが特定品種に限定されたほか、四塩化炭素を使って粉砕したコムギを浮遊選別した後に洗浄で胚乳を除去するなど、胚芽の抽出プロセスが煩雑だった。

NUProteinは品種に依存せず、浮遊選別、洗浄による胚乳除去などのプロセスを不要とする独自の製法を開発し、製粉会社で発生する副産物を原料とする独自製法により、低コストなタンパク質合成を実現している。

(HEK293やCHOなどの)組換えタンパク質の生産では、1グラムのタンパク質を合成するのに材料コストが3000万円、3週間以上の時間と240Lの培地が必要となる。これに対し、NUProteinの技術を使うと、材料コストは1/3000、期間は1/20、使用培地は1/24に抑えられるという。

培養液関連の共通成分を使用できるため、「大きな設備投資が必要なく、顧客サイトでの費用圧縮ができる」と代表の南氏は語る。

デメリットもある。コムギ胚芽抽出液は活性の高さから超低温管理が求められるため、保管・輸送コストがかかる。日本から海外へ輸送するには甚大なコストがかかるというデメリットに加え、培養肉・培養魚企業が海外に多いことが、NUProteinが海外展開を「必然」と考える理由になった

出典:NUProtein

すでに海外から製造委託の引き合いや、米国・欧州・シンガポール企業からサンプルに対する高評価なフィードバックが寄せられているという。

海外では大麦タバコなどの植物を「工場」として目的の成長因子を開発する分子農業スタートアップが登場しているが、同社のビジネスモデルは企業が自社(オンサイト)で成長因子を合成することを可能とする

つまり、成長因子の原料となるコムギ胚芽抽出液を培養肉企業に提供し、タンパク質合成プロトコルの技術ライセンスを提供できるという強みがある。

セミナーではさらに上流の、バリューチェーン全体におけるビジネスモデルの構想から、大手参入によるさらなるコスト削減の可能性、米など小麦以外の原料の可能性なども語られた。

 

▼NUProteinセミナー(60分)視聴には会員登録が必要

ここから先は有料会員限定となります。

読まれたい方はこちらのページから会員登録をお願いします。

すでに登録されている方はこちらのページからログインしてください。

関連記事

アイキャッチ画像の出典:NUProtein

 

関連記事

  1. ShiruがAIプラットフォームで開発した最初の製品「OleoP…
  2. 韓国が培養肉の申請プロセスを明確に:培養肉企業の参入を促進
  3. 中国のJoes Future Foodが豚の培養脂肪のパイロット…
  4. Avant Meatsがシンガポールに新しい研究施設・パイロット…
  5. 米培養肉Upside Foods、カリフォルニアに培養肉工場を開…
  6. 菌糸体由来のブロック肉を開発するMeati FoodsがD2C販…
  7. イスラエルAleph Farmsが宇宙で培養ステーキ肉を作る「A…
  8. 培養シーフードのAvantが約14億円を調達、来年パイロット工場…

おすすめ記事

米国防総省、Air ProteinやThe Better Meat Co.などフードテック企業5社に助成金を交付

アメリカ国防総省(DoD)は、バイオエコノミーと防衛産業基盤の強化を目的に、Ai…

イスラエルのDairyX、精密発酵技術で自己組織化するカゼインミセルの生産方法を開発

2022年に設立されたイスラエルのスタートアップ企業DairyXは今月、精密発酵…

ケンタッキー、ビヨンド・ミートの代替フライドチキンを全米で販売

ケンタッキーフライドチキン(KFC)は5日、アメリカ企業ビヨンド・ミートの代替肉…

シンガポールのSophie’s Bionutrientsは微細藻類を原料にした代替パテ肉を発表

シンガポールのSophie's Bionutrientsは微細藻類を使った植物性…

植物性刺身を開発するOcean Hugger Foodsが復活|タイ企業Nove Foodsと提携して今年後半に海外展開へ

コロナウイルスにより一時は操業停止に追い込まれた植物性代替魚企業Ocean Hu…

ドイツのThe Cultivated B、EFSAに向けた培養ソーセージの承認申請手続きを開始

ドイツの培養肉企業The Cultivated Bは14日、欧州食品安全機関(E…

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

リアルセミナー@東京のお知らせ【2025/6/18】

最新記事

▼メルマガ登録はこちらから▼

フードテックの海外ニュースを週1回まとめてお届けしております。

 

ご登録いただいた方には、国内外の培養肉開発に取り組む企業101社をまとめたレポート(全23ページ)を無料でお配りしております(2022年3月更新版)。

 

最新のフードテックニュースを逃したくない方におすすめです。

 

 

▶メールマガジン登録はこちらから

▼聞き流しフードテックニュース▼

 

 

 

Foovo Deepのご案内

Foovoの記事作成方針に関しまして

精密発酵レポート・好評販売中

マイコプロテイン・菌糸体タンパク質レポート好評販売中

【2024年】培養魚企業レポート好評販売中

【FoovoBridge】日本のフードテックニュースを海外へ発信する英語サイト

フードテックを理解するのに役立つ書籍

夢の細胞農業 培養肉を創る

夢の細胞農業 培養肉を創る

羽生雄毅
1,707円(05/22 15:10時点)
Amazonの情報を掲載しています
培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

培養肉とは何か? (岩波ブックレット)

竹内 昌治, 日比野 愛子
572円(05/23 01:03時点)
発売日: 2022/12/06
Amazonの情報を掲載しています
フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義

田中宏隆, 岡田亜希子, 瀬川明秀
1,940円(05/23 05:01時点)
発売日: 2020/07/23
Amazonの情報を掲載しています
マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

マッキンゼーが読み解く食と農の未来 (日本経済新聞出版)

アンドレ・アンドニアン, 川西剛史, 山田唯人
1,980円(05/22 21:10時点)
発売日: 2020/08/22
Amazonの情報を掲載しています
クリーンミート 培養肉が世界を変える

クリーンミート 培養肉が世界を変える

ポール・シャピロ
1,980円(05/23 13:15時点)
発売日: 2020/01/09
Amazonの情報を掲載しています
培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

培養肉の入門書: 趣味・興味・投資・事業の入り口に 培養肉シリーズ

石井金子
498円(05/23 00:16時点)
発売日: 2022/02/20
Amazonの情報を掲載しています
PAGE TOP