世界人口の増加に伴う食料需要の高まりにより、2030年にはタンパク質が不足すると危惧されている。食肉や乳製品を生産する畜産由来の温室効果ガスは全体の約14.5%を占め、自動車、航空機に匹敵する環境負荷が指摘されている。
タンパク質不足と環境負荷軽減の解決策として普及が進むのが、代替肉だ。
代替肉は大きく植物肉と培養肉に分類される。国内でもスーパーなどで大豆ミートの流通が拡大しているが、植物肉では難しい肉本来の食感や味を再現できると期待されるのが、動物の体の外で細胞を培養して作られる培養肉だ。
9日、細胞農業協会でアソシエイトとして活動し、日清食品ホールディングスと共同で培養ステーキ肉の開発を進める東京大学竹内研究室所属の岡田健成氏がセミナーに登壇した。
※セミナー動画は本記事最後より視聴できます。
2040年には培養肉は約65兆円規模に
岡田氏は今後の培養肉市場について、現在のほぼゼロの市場から、2040年には約65兆円規模と、世界の食肉市場の35%を占める急成長が見込まれる市場だと言及。
培養肉の市場規模が実際に予想通りとなるかどうかは、技術の進展、コスト削減、資金投入、人的投資、ルール形成など様々な要因に左右されるが、「将来的に市場規模が伸びるのはほぼ確実」だと同氏はみている。
実際に、2013年に培養肉を世界で最初に発表したマーク・ポスト教授の培養バーガーパテは1枚で3000万円以上したが、現在は畜産肉の2ドル/kgに対し、培養肉は100倍~10,000倍の価格までコストダウンを実現しているという。
現時点では畜産肉と比べると現実的な価格ではないものの、2030年には約6ドル/kgまで下がると予想されている。
2020年から培養肉への出資、大手の参入が増加
これまでに培養肉の販売認可が下りたのはシンガポールに限られるが、アメリカでは培養肉工場が複数開設され、シンガポールではアジア最大となる培養肉工場が着工するなど、スタートアップ各社による流通拡大に向けた準備が進む。
2020年を境に国内でもスタートアップの設立が増え、味の素、明治ホールディングス、三菱商事など大手企業の参入が目立つようになったと岡田氏は指摘する。法整備においても、今年になってから議員、厚生労働省主導の具体的な動きが目立つようになっている。
細胞農業の普及は他業界に及ぶ
培養肉の技術基盤となる細胞農業が普及していくのは食肉産業に限定されない。チョコレート、母乳、牛乳、脂肪、ペットフードなど、普及が予想される業界は多様だ。現在は食品事業に参入していなくても、細胞農業にいかせる技術を有する企業が参入できる可能性もある。
セミナーでは、培養肉の実用化に向けた課題、日本の取り組みが海外と比べて遅れている理由などについても語られた。
▼培養肉動向セミナー(60分)(視聴には会員登録が必要)